| ご承知のように、ディスクレパンシー(discrepancy)は不合、不一致、食い違いという意味の単語ですが、歯科矯正におけるディスクレパンシーとは「顎と歯の大きさの不一致」という意味で使われます。そのほとんどは、歯が大き過ぎるか、顎が小さいか、その両方のため、顎に歯が収容し切れずに叢生(そうせい:乱ぐい歯、でこぼこ)や、歯列(放物線状の歯のならび)が顎より広くなって、口元を突出させる不正(上下顎前突)の原因の一つになっています。(そのため、これらの不正咬合ことに叢生をdiscrepancy caseとよぶこともあります。) 矯正歯科界でも、通常、ディスクレパンシーをアンテリア(anterior:前方)やポステリア(posterior:後方)という分け方はしていない(そういう呼び方はしない)かと思いますが、非抜歯矯正を唱道する人達は、よくある八重歯や下顎前歯部の不規則歯列に対し、歯列後方にある親知らずや第二大臼歯部に叢生を移動させるという批判に対し、ポステリア・ディスクレパンシーという用語を作って(使って)、『遠心移動なんてするとポステリアディスクレパンシーを作ってしまう』なんぞという批判は(当らない)、と論を展開させているわけです。 <遠心移動によりポステリアディスクレパンシーを作ってしまうのは事実か> 非抜歯矯正といっても親知らずは抜歯するのですが、そもそもトータル・ディスクレパンシーのあるケースだから親知らずが埋伏する(出て来られずに水平に埋まる)わけで、親知らずを抜いたからといって(ことに日本人の顎においては)新たなスペースができるとは思えません。当院に、非抜歯治療の治療経過に不安を持って訪れるセカンドオピニオン希望者や、転院を求めて見える患者さんの口の中を診ると、『遠心移動なんてするとポステリアディスクレパンシーを作ってしまう』という事実を、嫌というほど見せられます。
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