| 里美さんの八重歯は典型的な不正咬合で、これぞ矯正治療の適応症という見本のようなケースだと思われますが、<歯科にいってもなにもいわれませんでした>という歯科医師は、いささか無責任、不親切だと思います。 八重歯は、犬歯という歯が外にはみ出た状態を表す通称ですが、この犬歯という歯はいわゆる“牙”ですから、動物である人間にとっても重要な役割を担う大切な歯であることに変わりはなく、咬合という観点から、第一大臼歯(6歳臼歯)と共にその存在と位置のあり方は極めて重要、と歯科医学の中では認識が確立しています。 つまり、上下それぞれの顎の中で、左右の犬歯、第一大臼歯が家の四本柱のように本来あるべき位置にあること、そして、上下の犬歯同士、6歳臼歯同士が正しく咬み合うことが咬合機能上大切なことで、これが矯正治療の目的である、とさえいえます。 その意味で先の歯科医を無責任といったわけですが、八重歯になって機能していない(咬み合っていない)犬歯に対し、時に「矯正は必要ない」などという歯科医は、単に矯正歯科医への紹介や説明の面倒から逃げただけか、あるいは虫歯の治療には熱心だが歯ならびに無関心な歯科医ともいえます。
矯正歯科を受診する際の知識として、八重歯がなぜ出来るか、その矯正治療はどうやるのかについて、一般論を少し書き加えておきます。八重歯は、そのほとんどが歯の大きさとそれを収容する器である顎の大きさとの不調和(discrepancy)、簡単にいえば歯が大き過ぎるとか、顎が小さ過ぎることによって起こります。 八重歯が上顎によく見られるのは、上顎では犬歯の生える順序が最後であるため、しわ寄せが犬歯に来て、外にはみ出すためです。歯の大きさは、前歯が大きければ奥歯も、 上の歯が大きければ下の歯も大きくなりますので、 通常、 八重歯の人は下の歯並びもどこかがデコボコになっています。 八重歯のある歯並びの典型的な治療方針は、 理屈の上からいえば、 1本1本の歯を小さくするとか、 顎を広げて大きくするということが考えられますが、 現実的にはできないことですので<歯の数を減らして(抜歯)、 顎の大きさに合った歯の数にする>方法がとられます。 治療方針など詳しくは、里美さんの矯正上の資料(レントゲンや口の型など)をとって分析してみなければわかりませんが、少なくとも今の悩みを解決し、歯ならび美人(正しくは歯ならびも美人)になるために、すみやかに矯正歯科医に相談されることをお勧めします。 なお、相談は一般歯科医院ではなく、必ず矯正歯科専門医院に行ってください。
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