| れいこさんは、ご自分の現状を客観的かつ理性的に把握され、的確な文章でそれを表現されておられますので、状況は掴めましたが、一矯正医として、内容の重さに居住いを正す思いで拝読いたしました。 矯正治療(歯牙移動、動的治療)は、それ自体生体にとって侵襲であり、かつ長期にわたる治療であることから、その過程と結果において<功の部分と罪の部分>があることを、長い臨床経験の中で痛感しています。残念ながら、れいこさんの場合はその罪の部分が端的に現出したケースで、これを読む矯正専門医の先生は、誰もが矯正の診断、治療方針のむずかしさとその責任の重さに、ある種慄然とするはずです。 れいこさんの矯正上の要点をザッとまとめますと、 1)骨格性の下顎前突+叢生(本来、外科適応症例) 2)10歳から16歳まで歯列矯正+チンキャップ(歯列矯正のみ) 3)2003年11月より装置のみの治療開始(矯正医は外科矯正がベストを示唆) 4)半年ほど前より下顎前歯の歯槽骨吸収が悪化(歯の動揺増大) 5)歯周病科専門医の診察(数年後脱落の可能性、インプラントを提案) 6)外科を希望する気持ち(30,40年後の予後、審美的コンプレックス) 7)美容外科手術の可能性 以上を踏まえたうえで3点のご質問ですが、その前に、今更ながらとはいえ上記3)の動的治療に入ったこと、さらにいえば2)の治療はもっと早く見切りをつけるべきではないか、というところに疑問が残ります。 れいこさんの今の状態は、前歯がいかに反対でなくなっていようとも、顎の関係は<外科矯正がベスト>という状態に変わりはないわけですから、顎が今のままで下顎前歯をインプラントにしても(あるいはどのような義歯にしても)、負担過重で長く持たないどころか、作製すること自体困難だと思うのですが、それは可能という判断なのでしょうか。 矯正相談の際に、なぜ矯正治療をした方が良いかという理由の一つに、「将来、義歯を入れる必要が起きたときに、より良い義歯を入れることができるように」と説明することがよくあります。れいこさんの今の状態は、(インプラントを含む)良い義歯が入れらる状態とは思えません。れいこさんが、すでに近い将来の下顎前歯の抜歯(脱落)と、その後の(可能かどうかは別として)インプラントの植立を受入れているのであれば、理屈上、上記6)のれいこさんの考えを推奨できます。 以上が、れいこさんの3点のご質問に対する返答ですが、より具体的な回答となると、手術が可能かどうかを含めて、執刀する外科医、歯周病科医、インプラント専門医らの意見を総合したうえでなければ決められませんので、お答えしようがありません。 なお、7)については、れいこさんは美容外科を(外科矯正をも)少し誤解されているかと思います。美容外科も外科矯正も基本的に手術方法が変わるわけではなく、ましてや美容外科に特別の方法があるわけではありません。れいこさんのケースを美容外科医がもし手掛けるといったら、(極めて悪くいえば)咬合は無視しますので、今より咬み合わなくなるどころか、術後の義歯さえ入れられない可能性があります。 外科矯正とは、咬合を考えながら美容成形する方法ととらえてください。その意味で、7)の選択肢はありません(あってはいけません)。
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