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ドキュメンタリー矯正治療 / ステップ20

トルクコントロールとは?

今回のドキュメンタリー矯正治療では、トルクコントロールについて説明します。

トルク【torque】とは・・・

新辞林によれば、回転軸周りの力のモーメントのこと。棒をよじる場合や、原動機の回転軸における駆動力(エンジンやモーターのパワー)を示すのに用いる語。ねじりモーメント。と解説されています。

矯正歯科におけるトルクとは・・・

ブラケットスロットを回転軸とした、歯の回転を示します。
そしてトルクコントロールとは、「レクトアンギュラーワイヤーによって屈曲したメインアーチに捻じりを入れ歯根の頬(唇)舌的な傾斜を任意に調整すること」と言えるでしょう。

トルクとは・・・

なぜ、この様なトルクコントロールが必要になったのでしょうか?

歯の傾斜移動

歯の歯体移動

歯の移動には、歯体移動(したいいどう)傾斜移動(けいしゃいどう)に分かれます。

傾斜移動では、歯が傾いて移動するため歯根先端部分(★印)の位置はあまり変化しません。
歯体移動では、歯が傾かず並行に移動するため歯根先端部分(★印)の位置も変化します。

この様に、歯の傾斜移動と歯体移動では、同じように歯が動いていても歯根を含めた全体の動きは異なるのです。

すでにお話したアンテリアリトラクションキャナインリトラクションなどの大きな歯の移動をおこなう時、歯は傾斜移動をしやすくなります。

歯の移動をおこなうための矯正力は、ワイヤーの弾性や装着されたコイル、パワーチェーンなどによって歯全体に伝わりますが、歯根周囲は骨(歯槽骨)に囲まれているため歯の移動に対する抵抗が大きくなり歯冠部に比べて歯の動きが遅くなります。

その結果、動きやすい歯冠部の移動が先におき、歯根部の移動が遅れるため、歯の大きな移動では傾斜移動が起きやすくなってしまいます。

歯列弓の接線方向に対して並行な方向に傾斜する場合は、ブラケットのアンギュレーションやワイヤーのベンドによりコントロールします。しかし、歯列弓の接線方向に対して直交するように歯が傾斜する場合は、レクトアンギュラーワイヤーにトルクを組み込みトルクコントロールしなければ傾斜の改善はできません。

キャナインリトラクション(犬歯の遠心移動)では、犬歯を遠心に移動するのでメインアーチのたわみにより傾斜移動を改善できます。

キャナインリトラクションによる
犬歯の傾斜移動

キャナインリトラクションによる
犬歯の歯体移動

しかし、アンテリアリトラクションでは前歯を舌側に移動させるため、メインアーチに対する歯の移動方向は直交します。したがってメインアーチのたわみで歯の傾斜を改善することは出来ません

アンテリアリトラクションによる
前歯の傾斜移動

アンテリアリトラクションによる
前歯の歯体移動

そこで、アンテリアリトラクションではレクトアンギュラーワイヤーを用いて歯の傾斜移動をおこさないようにするのです。

ところで、傾斜移動ではなく歯体移動をしなければならないのなぜでしょう?

矯正治療の目的は、歯を動かしてきれいな歯並びを創り、そして安定させることです。歯を動かすだけであれば、傾斜移動でも歯体移動でもあまり大きな差はないかもしれません。

しかし、移動した歯がその場所で落ち着くため、つまりきれいな歯並びが矯正治療後にも安定するためには、矯正治療によって作り出された歯並びが噛む力(咬合力)を始めとする歯に加わる様々な力に対してバランスがとれた位置関係になる必要があります。

歯に加わる力の中でも咬合力は特に大きな影響を与えます。

では、咬合力が加わっても安定する歯の位置とはどの様な位置なのでしょうか?

咬合力を金槌、歯を固い木に刺さっている釘に例えて説明します。
釘を真っ直ぐに打つためには、釘の頭の部分を釘の長軸方向に対して真っ直ぐに金槌を振り下ろさなければなりません。もし、長軸に対して斜めの方向から釘を打とうとすれば釘は傾いたり、曲がったりしてしまうでしょう。


金槌で釘を真っ直ぐに打てば
釘は曲がりません


釘に対して斜めの方向から打つと
釘はどんどん曲がってしまいます

咬合力と歯の関係も金槌と釘の関係と同様に、歯の長軸方向に対して咬合力が真っ直ぐに加われば歯を傾斜させたり曲げたりする力が加わりません。歯は釘と異なり咬合力が働くたびに埋め込まれていくわけではないので、歯の位置は安定するのです。

もし、歯が傾斜した状態で咬合力が加わると、段々と歯を傾斜させたり、歯や歯の周囲の歯槽骨を破壊する力が加わります。

矯正治療中に歯が大きく傾斜してしまうと戻すためのワイヤーを入れてもきちんと戻すことが出来なくなってしう場合があります。歯を傾斜した状態で矯正治療を終了すると、咬合力によって常に歯を回転(傾斜)させる力が加わることになり、矯正治療後の噛み合せが不安定になったり後戻りの原因となってしまうのです。

ですから、治療中に傾斜移動が起きやすいステージでは充分に注意し、傾斜をさせないようにコントロールして行くことが非常に大切です。

レクトアンギュラーワイヤーによるトルクコントロール

アンテリアリトラクションで、歯を歯体移動させるためのレクトアンギュラーワイヤーによるトルクコントロールについて御説明します。

アンテリアリトラクションでは、前歯を舌側に移動させるための反作用で前歯が舌側に傾斜しやすくなります。この前歯の舌側傾斜を防止するためにレクトアンギュラーワイヤーで屈曲したワイヤーにトルクを組み込みます。

レクトアンギュラーワイヤーは、断面が角形になっており、このワイヤーをブラケットのスロットにタイイングすることで、ブラケットスロットを中心とした歯根に対する回転力を与えることが可能です。

レクトアンギュラーワイヤーの断面のサイズがスロットより小さなサイズであればスロットとワイヤーの間に遊びが発生し、トルクをいれたレクトアンギュラーワイヤーでも全ての力が歯にはかからず小さな力となります。一方、レクトアンギュラーワイヤーの断面のサイズがスロットと同じ大きさであれば、ワイヤーとスロットに遊びがないためトルクコントロールに大きな力が加わります。

また、レクトアンギュラーワイヤーに組み込むトルクの角度が大きければより大きな力が歯にかかり、トルクの角度が小さければ歯にかかる力が小さくなります。

したがって、トルクコントロールはワイヤーのサイズと与えるトルクの角度によって、実際に歯に加わる力が変わってくるのです。

さらにトルクは上下顎骨の前後的な位置関係、治療のステージ、使っているワイヤーのサイズに合わせて異なります。また、実際にトルクを組み込んでも前歯の反応は様々です。そこで、毎回の診療時に前回入れたトルクによる変化を注意深く観察して、次回診療時までの反応を予測しトルクに新たな微調整を加えてアンテリアリトラクションを進めて行くのです。

トルクコントロールをおこなう時の問題点

トルクコントロールにより歯体移動をさせることで、歯の移動にともなう抵抗力(反作用)は、大きくなります。

アンテリアリトラクションでは、前歯を後退させるための抵抗源(アンカー)として、大臼歯を用います。このため、トルクコントロールをしながら歯体移動をおこなうと反作用により大臼歯が近心に移動しやすくなります。この様な状態をアンカーが崩れることからアンカーロスと呼びます。

上顎のアンテリアリトラクションを例にアンカーロスについて説明します。

上顎の大臼歯がアンカーロスをおこすと上顎大臼歯が近心に傾斜したり近心に回転してきます。アンカーロスをおこすと、元に戻すのに時間がかかり治療期間が長引きます。しかし、アンカーロスをおこしたまま治療を進めると、最後には歯の傾斜や回転を改善しないまま治療を終了することになり、きちんとした噛み合せを創らないで治療を終了してしまう、すなわち治療のゴールを下げてしまうことになります。


前歯を舌側に移動した反作用で
大臼歯が近心(前方)に
傾斜した状態


前歯を舌側に移動した反作用で大臼歯が近心(前方)に
回転した状態

そこで、この様なアンカーロスを引き起こさないようにするために、アンカレッジプレパレーションをおこないます。アンカレッジプレパレーションでは、アンカーロスを引き起こしそうな歯を先に逆方向へ傾斜、回転させておくのです。この様な処置は、メインアーチに曲げ(ベンド)を入れることで可能です。アンカレッジプレパレーションに用いるベンドにはティップバックベンド、トゥーインベンドがあります。

  • ティップバックベンドを入れることで、大臼歯を遠心に傾斜させアンカーロスによる、近心傾斜を防ぎます。
  • トゥーインベンドを入れることで、大臼歯を遠心に回転させ、アンカーロスによる近心への回転を防ぎます。


ティップバックベンドにより
大臼歯を遠心に傾斜させた状態


トゥーインベンドにより
大臼歯を遠心に回転させた状態

上記のアンカレッジプレパレーションで、全ての症例がアンカーロスを起こさない訳ではありません。アンカーが不足する場合、アンカーを強めアンカーロスを防ぎます。アンカーを強くすることを加強固定(かきょうこてい)と呼びます。
加強固定には、顎間ゴム、ヘッドギア、インプラントアンカーなどを用います。

 

顎間ゴムによる加強固定

 

ヘッドギアによる加強固定

 

インプラントアンカーによる加強固定

Dr.ヤスアキのほっと一息

トルクコントロールについて、御理解頂けたでしょうか?

トルクコントロールの概念は初期の矯正歯科治療にはなく、レクトアンギュラーワイヤーとワイヤーサイズにあわせたスロットを用いたエッジワイズ法(近代矯正の基本テクニック)により確立されたものです。

エッジワイズ法以前の矯正治療では、トルクに対するコントロールが不十分なため咬合が不安定になったり、後戻りをした症例が多かったようです。

そして、現在でも矯正治療におけるトルクコントロールの重要性はあまり変わりません。

近年、矯正治療の期間短縮のためにトルクコントロールが不十分と思われる症例にしばしば遭遇します。

これは、口の中だけをみている患者さんには、トルクコントロールの重要性があまりよく分からないために、傾斜移動で歯を並べて矯正治療を終了してしまうことが原因と推測しています。トルクコントロールは、顎の骨の中の歯(歯根)を動かす矯正治療上大切なステップです。マンションに例えるなら、耐震性に優れた鉄骨がきちんと柱や土台に埋め込まれているかというものです。もしも、埋め込まれていなければ完成直後(矯正装置撤去直後)は、あまり問題なくても将来様々な問題の原因となりえます。

治療後に後悔しないためにも、矯正治療の期間をむやみに短縮せず、きちんとしたトルクコントロールをした矯正治療を受けましょう。

次回は、トルクコントロール後編、実際の症例でトルクコントロールをみてみましょう。


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