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ドキュメンタリー矯正治療 / ステップ14

犬歯の移動

矯正治療の進み方は大きく分けて4段階になります。
今回は、第2段階である「犬歯の移動」について御説明します。
犬歯の移動を専門的には「キャナインリトラクション」と呼びます。

肉食獣の牙・・・「犬歯」

食いつき切り裂くための牙に相当する重要な歯

犬歯はcanine
teeth(キャナインティース)
とも呼び、上顎下顎の真ん中から3番目の歯で、上下顎左右それぞれ対になって4本あります。肉食の哺乳類では、食物(獲物である動物)に食いつき切り裂くための牙に相当する重要な歯です。そのために犬歯は、尖頭と呼ばれる尖った形態をもち、槍のように獲物に突き刺さります。

犬歯は、歯の根が長く顎の骨深くに埋まって顎骨の中にしっかりと植立しています。また、歯冠部エナメル質(歯の最外側にある最も硬い部分)は、全ての歯の中で最も厚く、簡単に割れたりむし歯になったりしません。したがって、犬歯はむし歯になりにくく、他の歯が抜け落ちても最後まで残る丈夫な歯です。

なぜ犬歯は、この様に頑丈な構造となっているのでしょうか?

犬歯の脱落や破折は、動物にとって食物の摂取ができなくなることを意味します。すなわち犬歯の脱落は、その動物の生命を脅かすことに直結するのです。

また、ヒトの社会生活において、表情は重要な役割を持っています。その中でも、笑顔はそのヒトの人柄を現す特徴的な表情です。笑顔をより際立たせるものとして、きれいな歯並びの効果は計り知れません。

笑顔の印象

上顎の犬歯から前歯を含めた反対側の犬歯までが、笑った時に最も目立つ歯です。犬歯の位置や色、形態は笑顔の印象にも大きな影響を与えます。

この様に犬歯は、動物にとって生命を維持する上での重要な役割と、ヒトの社会生活をより良くする審美的な口元のためにも重要な歯です。したがって、矯正治療においても、犬歯に対する位置決めやコントロールが、より良い治療結果を生むために重要な要素となります。

クイズ:犬の歯は全て犬歯である!ホントかウソか?
(答えは最後に書いてあります(^^)/~)

犬歯は噛み合せのナビゲーター

噛み合せは、専門的に咬合(こうごう)と呼び、静的な咬合と動的な咬合に分かれます。

静的な咬合とは、上下の歯が最も多くの接触点で噛みあい、最も安定している状態、動的な咬合とは静的な状態に誘導するための咬合状態です。

噛むポイント

上下の歯は、大きく分けて5ヶ所できちんと噛むことができれば安定すると考えられます。噛むポイントとなるのは、1.前歯部 2.左右の犬歯部 3.左右の大臼歯部です。したがって、上下の犬歯部がきちんと噛むことで静的な咬合状態を安定させることができます。矯正治療により、安定して咬合を作るためには、犬歯の咬合関係に細心の注意が必要なのです。

上顎の歯列は、上顎骨にあり、上顎骨は頭骸骨とくっついているので、ものを食べる時にも動きません。しかし、下顎の歯列は下顎骨にあり、下顎骨は、ものを噛む時に大きく開けたり閉じたりしながら動きます。また、この下顎骨の運動は、直線的な運動ではなく、正面や側面から見て楕円を描きながら運動をしています。下顎骨が、複雑な動きをすることで、ヒトは前歯で食べもの小さく噛みきり、奥歯ですり潰すといった複雑な咀嚼運動が可能となります。この咀嚼運動による動的な咬合から下顎の位置をガイドし、最終的に静的な咬合を安定させる役割も犬歯にはあるのです。

側面 下顎骨の運動

この様に、犬歯は咬合を安定させる上で、非常に重要な働き、噛み合せのナビゲーター役を担っているのです。

理想的な犬歯の位置関係とは?

上顎と下顎の歯は、左右対称になっており、上下で対になっています。例えば、上顎の右側犬歯と下顎の右側犬歯が上下顎で対になっています。上下の歯の数は同じですが、上顎の前歯は下顎の前歯に対して1本当たり2~3ミリ程度大きくなります。その結果、上下の歯列の正中線が一致した理想的な噛み合せの場合、上顎の犬歯は下顎の犬歯より歯の半分ほど後に位置します。

専門的には、上顎犬歯の近心部に下顎犬歯の尖頭が位置する関係が理想的な関係で、「犬歯のI級関係」と呼びます。なお、上顎の犬歯が下顎の犬歯とほぼ同じ位置関係にある犬歯関係を「犬歯のII級関係」、上顎の犬歯から離れて下顎の犬歯が前方にある状態を「犬歯のIII級関係」と呼びます。

犬歯のI級関係

犬歯の位置が歯列の位置

上下顎の歯列は前方中心部より「前歯部」「犬歯」「臼歯部」により構成される放物線を描いています。放物線を描く歯列の前後的な中間、曲線から直線に変化する変曲点に犬歯が位置します。したがって、矯正治療で犬歯の位置を決めることとは、上下の歯列の位置を決めることとなるのです。

犬歯部 前歯部 臼歯部

たとえば、前歯を後退させて治したい症例では、犬歯の位置を頭蓋に対して後方に位置づけることで、矯正治療後の歯列も後方に位置づけることが可能となります。また、犬歯の位置を左右対称に位置づけることで、上下の歯列も左右対称にすることが可能となります。

では、犬歯の位置を決めるのは、いつでしょうか?
犬歯の位置は、キャナインリトラクションの時に決めるのではありません。診断の時すでに術者(矯正をおこなう歯科医師)は、予測模型などを利用して犬歯の位置を予測しておきます。そして、その位置に効率良く犬歯を移動するように治療計画をたて治療を開始しているのです。

そして、診断時に予測した位置に犬歯を移動するのが、犬歯の移動(キャナインリトラクション)ステージなのです。

犬歯の移動方法

犬歯の位置決めをおこなうために、様々な方法が使われます。今回は、ひるま矯正歯科で最もよく使われる方法を御説明します。

パワーチェーンによる移動方法

パワーチェーン

パワーチェーンとは、透明な(カラフルなものもあります)直径5ミリ程の小さいゴムの輪が、数珠繋ぎになったゴムの鎖の様なものです。このパワーチェーンを引き延ばしながら、犬歯のブラケットに引っ掛け犬歯を引っ張ります。犬歯を前歯側に移動する場合は、犬歯と前歯をパワーチェーンでつなぎ、犬歯を臼歯側に移動する際には犬歯と臼歯をパワーチェーンでつなぎます。犬歯を移動させる反作用として、犬歯にかけたパワーチェーンと反対側の歯を犬歯側に引き寄せてしまいます。

オープンコイルによる移動方法

オープンコイル

オープンコイルとは、ワイヤーを「ら旋状」に巻いたスプリングです。オープンコイルをメインアーチに通し、圧縮して前歯と犬歯の間にセットすることで、犬歯を後ろ側に移動することが可能です。犬歯を後ろ側に移動する反作用として、前歯を前方に移動させます。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
治療に用る主な装置
マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
費用(自費診療)
約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。