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症例紹介41/Yさん「開咬合 両突歯列 叢生歯列弓 下後退顎」

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経過観察の後,抜歯治療を行った成長期の開咬症例
診断名:開咬合 両突歯列 叢生歯列弓 下後退顎

今回は9歳の時に、前歯部の叢生(乱杭歯)、ものが噛み切れない(開咬)の改善を主訴に来院し経過観察とメインテナンスを経て抜歯による矯正治療を行った患者Yさんについて解説します。

■初診時

現症および主訴

9歳の時点で上下顎前歯が唇側に突出しながら萌出し叢生と開咬である事を不安に思い来院されました。

顔貌所見

正貌において左右の非対称性を認めず、側貌において下顎の後退感口唇閉鎖時の軽度緊張感口唇の突出感を認めました。

口腔内所見

上顎前歯が唇側に傾斜し突出し、上下顎前歯部に叢生を認め、前歯は開咬でした。臼歯関係は左右ともにAngle class Iで上下歯列の前後的な位置関係に明らかな問題は認めませんでした。

まだ永久歯は完全に萌出しておらず(永久歯は前歯と第1大臼歯のみ)、乳歯と永久歯の混在する混合歯列期でした。上顎左側犬歯は萌出しておらず萌出スペースがない事から顕著な低位唇側転位(八重歯)になる事が予想されました。

X線写真所見

側面頭部X線規格写真(セファロ)により上顎骨と下顎骨の前後的な位置関係は下顎骨が後方かつ下方に位置し、上下顎骨の歯の並ぶ前後的な奥行きはあまりなく、上顎前歯は唇側に傾斜する事で口唇突出感の原因となっていることがわかりました。パノラマX線写真では、まだ萌出していない永久歯は先天欠如することなく存在している事を認めました。 手根骨X線写真では骨の癒合の進行から成長の予測が可能ですが、まだ成長のピークまで時間がかかる事が予測されました。

唾液検査・歯周組織検査

唾液検査では、歯の磨き残しが多くむし歯の原因菌であるミュータンス菌は少なく、むし歯のリスクコントロールはしやすい傾向を認めました。歯周病のリスクである歯肉からの出血は永久歯の隣接面でわずかに認められました。

■経過観察方針

大臼歯関係はAngle class Iで上下顎歯列の前後的なズレは大きくないものの下顎骨の劣成長により下顎後退と診断しました。このような上下顎骨のズレを改善するための上顎骨の成長抑制や下顎骨の成長促進に効果的な方法はないと考えました。また、前歯部の叢生は上下顎骨の大きさに対して歯が大きすぎる事が原因であり、顎骨を大きくして歯を並べようとしても顎骨を大きくすることができず効果がないと考えました。

これらの点から、現時点では積極的な矯正治療の介入は必要なく、永久歯列が完成し顎骨の成長がある程度予測できる頃、かつ学業と矯正治療による通院のバランスがとれる時期を考慮して矯正治療を開始する事が適当と考え、それまでは永久歯の正常な萌出とう蝕と歯周病の予防を行うためのメインテナンスをしながら経過観察を行う方針としました

■動的療開始時

12歳0ヵ月まで経過観察を行い、上下顎ともに第1大臼歯までの永久歯が萌出した段階で検査を行いました。

初診時同様に、上下顎骨は前後的に成長したものの上顎骨に対して下顎骨の相対的な位置は後方のままの成長であり、下顎骨は下方に成長していく傾向も認めました。永久歯の萌出にともない犬歯の唇側転位は進み開咬の改善もあまり認められませんでした。顎骨内に永久歯萌出スペースが少ない事が原因であると診断し、上下顎左右第1小臼歯(4番)を抜歯し矯正治療を行う方針としました。動的治療期間は約30ヵ月と予想しました。

顔貌所見

口腔内所見

予測模型

X線写真所見

動的治療開始時

抜歯後に上下顎に装置を装着して動的治療を開始しました。

■動的治療終了時

動的治療期間および保定期間

動的治療期間は予想の30ヵ月より短い28ヵ月で動的治療を終える事ができました。保定期間は24ヵ月を予定し現在は保定中です。

顔貌所見

動的治療後の評価では、上下顎前歯の後退、鼻骨・オトガイ部の成長によりE-lineが前方に移動し総合的に口唇突出感や口唇閉鎖時の緊張感は改善し、口元の良好なバランスを得ることができました。

口腔内所見

上下顎左右4番を抜歯し上下歯列の叢生は改善され犬歯の低位唇側転位も改善されました。左右対称の抜歯により上下歯列の正中も一致しました

X線写真所見

動的治療後の評価では、パノラマX線写真所見において、全顎的な歯根吸収や歯槽骨吸収などを認めませんでした。セファロX線写真の重ね合わせにより上顎前歯の後退、鼻骨・オトガイ部の成長により口唇が後退して突出感と緊張感が改善した事がわかりました。また、下顎骨の成長は起きたものの頭蓋に対して下方への成長が大きい事が分かりました。パノラマX線写真により親知らず(8番)が形成されてきた事がわかります。

動的治療前後の比較

■う蝕(むし歯)と歯周病のトータルリスク比較

う蝕のリスク比較

う蝕のリスク合計は初診時唾液検査「13」→動的治療開始時「9」→保定開始時「8」と低い状態で安定しました。SM菌のスコアは低いままで安定し、唾液分泌量が増加し緩衝能も高くなりリスクが減少したものの、プラークの蓄積量(磨き残し)が増えてきてリスクが増加する気配を感じるので保定期間中により徹底したブラッシングの指導を行っていきます。

歯周病のリスク比較

歯周病のリスク合計は初診時「4」→動的治療開始時「4」→保定開始時「5」と低い状態で安定していました。矯正治療後に大臼歯を中心とした点状の歯肉出血が認められた事で歯肉炎と判断しリスクが上昇しています。今後の成長により歯肉炎から歯周炎になるリスクが高まりますので保定期間中に歯周病予防の指導を徹底していく必要があると考えます。

PCR、BOP、4mm以上のポケットの比較

●PCR(むし歯と歯周病の原因菌の付着を示す歯の磨き残し)
●BOP(歯周病の原因菌による炎症を示す歯肉からの出血)
●4mm以上の歯周ポケット(歯周ポケットが4mm以上になると歯周病の原因菌による歯槽骨

5分間刺激唾液分泌量の比較

う蝕と歯周病の合計リスクの変化

■考察

Yさんは永久歯と乳歯の混在する混合歯列期に当院を受診されました。保護者の方はYさんの歯並びと噛み合わせを心配されて「子どもの歯を早く治してあげたい、負担を少なく治してあげたい」とお考えでした。しかし、混合歯列期の矯正治療(1期治療、早期治療)が十分な効果を得られない症例が多く存在し、Yさんも矯正の精密検査を行ったところ1期治療の効果がない症例と診断しました。Yさんのように上の前歯が出ているお子さんの矯正治療のガイドラインとして厚生労働省の管理するMinds(マインズガイドラインセンター)でも、早期の矯正治療を行わない事を強く推奨しています。

マインズガイドラインセンター
http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/pub_orthodontic-in-children/pub_orthodontic-in-children.pdf#view=FitV

Yさんは1期治療を行わずにむし歯と歯肉炎のリスクをコントロールし永久歯の萌出を促し矯正治療(2期治療)に備える事とし、永久歯が生え揃い上下顎骨の成長の方向性もある程度予測可能な頃に2期治療を開始しました。このような治療計画により1期治療によるYさんの肉体的な負担や通院する時間的な負担、保護者の経済的な負担も過度に与える事なく今後も安定を期待できるきれいな歯並びとしっかり噛める噛み合わせを獲得する事が出来ました。

動的治療開始前の経過観察時、歯の磨き残しが増えたり減ったりするのでリスクを低い状態に安定して保つ事は難しかったのですが、動的治療期間中にむし歯・歯周病のリスクコントロールについて伝え続けた事、歯を抜歯したり28ヵ月もの時間をかけて矯正治療により歯並びを治した事から自分の歯を守る意識も高まった事も大きな成果と考えます。今後はリテーナーを使用しながらメインテナンスを行いむし歯・歯周病のリスクコントロールを行い、より健康で安定した口腔内を守ります。

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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
費用(自費診療)
約1,164,000円~1,339,000円(税別)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
歯根吸収が起きる可能性があります