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症例紹介42/Mさん「上突咬合 開咬合 叢生歯列弓 下後退顎」

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咬合が不安定になった舌側矯正治療に対する再矯正治療
診断名:上突咬合 開咬合 叢生歯列弓 下後退顎

今回は、不適切な治療計画により舌側矯正治療中に咬合が不安定になったと思われるMさんの再矯正治療症例について解説します。

■初診時

現症および主訴

Mさんは矯正治療中であるものの咬合が不安定になり主治医から十分な説明などを受けられなかったことでセカンドオピニオンを希望し受診されました。その後、前医による治療が中止となり当院へ転医となりました。初診時29歳。

顔貌所見

正貌において顔貌の顕著な左右非対称性や口唇の顕著な突出感などは認めませんでしたが、オトガイ部の後退感は強くスマイル時に上顎前歯がほとんど見えない状態となっていました。

口腔内所見

矯正装置は、上顎舌側に舌側矯正装置、唇側に牽引用のボタン、アンカースクリュー、下顎には唇側矯正装置が装着されていました。咬合平面は湾曲し臼歯部のみが接触する開咬となっていました。

X線写真所見

セファロ(頭部X線写真線規格写真)において上下顎骨の前後的ズレを示すANBは+9°、下顎骨の下方への回転を示すFMAは44.5°を示し、下顎後退型の骨格的な上顎前突の傾向を認めました。また上顎前歯は傾斜移動により舌側に傾斜している事が確認できました。パノラマX線写真において歯軸の平行性が不足していること、下顎左右8番が存在していること、デンタルX線写真では前歯部の歯根吸収が顕著であること、下顎左側4番遠心の歯槽骨吸収が進行していること、下顎右側7番が失活歯で根尖病巣があることを認めました。

唾液検査・歯周組織検査

唾液検査では、唾液の分泌量は正常で、緩衝能は低く、みがき残しが多いこと、フッ素が使用されていないことでむし歯のリスクは高い傾向を認めました。歯周病のリスクも高く、4mm以上の歯周ポケットを9.3%に認め歯肉からの出血(歯肉炎)BOPは28.7%に認めました。

■治療方針

再矯正治療 治療方針

再矯正治療を開始する前に、アンカースクリューを含めて矯正装置をすべて除去し、歯を清潔に保ちやすい環境をつくり、初期治療により口腔衛生指導を行い、むし歯と歯周病を予防するためのホームケアの方法を身につけてもらい歯周炎の改善を行うこととしました。初期治療期間中に咬合の変化を確認し、最終的な治療方針を決定することにしました。

初期治療後 治療方針

初期治療により、歯周炎は改善され4mm以上の歯周ポケットは0%になり、BOPも0%になりました。アンカースクリューにより圧下されていた上顎前歯が自然に挺出してきて開咬が改善されてきましたが、上顎前歯は傾斜移動であったため依然として舌側に傾斜していること、前歯部の歯軸コントロールが不十分で叢生が残っていること、下顎左側6番の近心傾斜が残り咬合平面の湾曲による不安定な咬合が残りました。

前医ではガミースマイルの改善のためにアンカースクリューを使用していましたが、初期治療後に前歯が挺出してきた顔貌ではガミースマイルを認めませんでした。初期治療後の変化をMさんに説明し、咬合平面の湾曲による咬合の不安定を改善するためには再度矯正治療を行う必要があること、唇側の矯正装置を装着する必要があること、ガミースマイルではないのでアンカースクリューは使用しないこと、歯根吸収がさらに進む可能性があることを説明し、リスクも理解された上で再治療を希望されたので、矯正装置を装着し再矯正を開始しました。治療期間は18ヵ月を予定しました。下顎右側7番の根尖病巣は大きく再根管治療時の予後が不良であると予想し下顎左側8番を移植する事にしました。

■動的療開始時

上下顎に唇側から矯正装置を装着しました。

■動的治療終了時

顔貌・口腔内所見

正貌においてスマイル時に上顎前歯が適切なバランスで見えるようになりました。歯軸コントロールにより上顎前歯の舌側傾斜は改善し、叢生が改善されました。下顎左側6番の近心傾斜が改善されました。

X線写真所見

動的治療後の評価では、パノラマX線写真において歯根平行性にあきらかな問題は認められませんでした。また、歯根吸収の明らかな進行も認めませんでした。セファロX線写真において上顎前歯の舌側傾斜の改善を認めました。

動的治療前後の比較

■う蝕(むし歯)と歯周病のトータルリスク比較

う蝕のリスク評価としてカリオグラムを行っています。カリオグラムは、歯科先進国スウェーデンのスウェーデン王立マルメ大学う蝕予防学教室のグンネル・ペターソン博士によって開発され、その予後の妥当性について多くの論文で評価されて信頼度の高いう蝕リスク診断プログラムです。

歯周病のリスク評価としてOHISを使用しています。OHISは歯科先進国アメリカのワシントン大学歯学部教授ロイ・C・ページ先生を中心とした歯周病専門医のグループによって開発されて歯周病のリスク診断プログラムです。

う蝕のリスク比較

う蝕のリスクは初診時「12」→動的治療終了時「11」と大きなリスクの減少はなく、中程度のリスクのままとなりました。また、カリオグラムによる1年以内にう蝕を避ける可能性は初診時「22%」→動的治療終了時「45%」とわずかに上昇(う蝕になるリスクは減少)しました。う蝕のリスクが大きく低下しなかった理由として家庭でのフッ素使用が定着しなかったこと、ラクトバチラス菌(LB菌)が多く検出されたことが考えられました。

初診時カリオグラム

動的治療終了時カリオグラム

カリオグラムによる「う蝕を避ける可能性」の変化

歯周病のリスク比較

歯周病のリスクは初診時「45」→動的治療終了時「17」に変化し減少しましたが、OHISでは病状が初診時「45」→動的治療終了時「17」、リスクが初診時「5」→動的治療終了時「3」に減少しました。これは、歯肉からの出血、歯周ポケットが初診時より改善したことによるものと考えられました。

OHISでのリスク変化

PCR、BOP、4mm以上のポケットの比較

・PCR(むし歯と歯周病の原因菌の付着を示す歯の磨き残し)
・BOP(歯周病の原因菌による炎症を示す歯肉からの出血)
・4mm以上の歯周ポケット(歯周ポケットが4mm以上になると歯周病の原因菌による歯槽骨の破壊)

5分間刺激唾液分泌量の比較

■考察

Mさんの症例は前医での治療が中止となったため前医から初診時の治療方針を含めた資料をいただけなかったので正確に分かりませんが、矯正治療中に咬合が不安定になった理由としてアンカースクリューの過度な上顎前歯の圧下、舌側矯正装置の特徴である歯軸傾斜のコントロールのしにくさから咬合平面の平坦化が不十分であったことが原因であったと思われます。また、これらの変化は治療経過を写真撮影し残しておけば何が原因で変化したか早い段階で分かること、さらに担当医とMさんの治療方針に関する意見交換が十分にできていれば、途中からアンカースクリューの使用を中止し唇側の矯正装置を使用するなどの対応を行うことも可能であったと考えます。

また、矯正治療開始前の口腔衛生指導が十分でなかったことから長期にわたる矯正治療により口腔衛生状態は低下し、むし歯と歯周病のリスクが高い状態で当院への転医となりました。これらのリスクは矯正装置を装着したまま改善することは困難であるため、すべての装置を除去しなければなりません。このため、矯正治療を中断する期間が必要となり、さらに装置もすべて取り替えなければならないため通常の矯正治療を開始するのと同等の費用がかかってしまいます。Mさんは転医に伴い時間と経済的に大きな負担がかかってしまいました。Mさんの症例からも治療開始前の医院選びの重要性についてご理解いただければと思います。

転医により治療方針を変更した際の懸念事項として下顎右側7番に下顎左側8番を移植した予後、前歯部の歯根吸収が再治療中に進行する可能性を説明していました。しかし、移植歯の予後も安定し、前歯部の歯根吸収も明らかな進行は認めなかった点は矯正担当医として胸をなでおろしています。しかし、これらの歯は今後のメインテナンス期間中にも症状が悪化する可能性がある予後の予測が難しい状態です。症状の変化を注意深く観察しながらメインテナンスを行い、歯の脱落に備えること、そのタイミングを可能な限り先にする努力を続けていきます。

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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
費用(自費診療)
約1,164,000円~1,339,000円(税別)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
歯根吸収が起きる可能性があります