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症例紹介40/Yさん「下顎右側2番欠損 上突咬合 上突歯列 叢生歯列弓」

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下顎前歯の先天欠如をともなう上顎前突症例
診断名:下顎右側2番欠損 上突咬合 上突歯列 叢生歯列弓

今回は、下顎右側2番を先天的に欠如し叢生と上顎前突を呈している症例について解説します。

■初診時

現症および主訴

お母様のご友人が当院に通院されておりご紹介により21歳で来院されました。 乳歯のときから下顎前歯部に癒合歯があり永久歯に生え変わったら歯の本数が少なかった(下顎右側2番が欠損していた)との事でした。主訴は、前歯部の突出感および叢生の改善でした。

顔貌所見

正貌において顔貌の顕著な左右非対称性は認めませんでしたが口唇の翻転により下唇赤唇部が厚く見えました。側貌において口唇閉鎖時の口腔周囲軟組織の緊張感は顕著で前突感も認めました。

口腔内所見

臼歯関係はアングルの分類においてクラスIで臼歯部の前後的な位置関係に大きなズレはありませんでした。上下顎前歯部に叢生を認め、下顎は右側2番が欠損している事で上顎前歯と下顎前歯の前後的なズレ(オーバージェット)が8.5mmありました。

初診時X線写真所見

セファロ(頭部X線写真線規格写真)において上下顎骨の前後的ズレを示すANBは+9°を示し、骨格的な上顎前突の傾向を認めました。パノラマX線写真においてあきらかな歯根の湾曲や短根などは認められませんでした。上顎右側、下顎左右側に親知らずを認めました。

初診時唾液検査・歯周組織検査

唾液検査では、唾液の分泌量が少なく、緩衝能が低い特徴がありむし歯のリスクは高い傾向を認めました。歯周病のリスクは低く、部分的に歯肉からの出血(歯肉炎)を認める程度でした。

■治療方針

治療方針として、親知らずの抜歯に加えて
方針(1):上顎左右4番、下顎左側4番(抜歯本数3本)と
方針(2):上顎左右4番、下顎左右4番(抜歯本数4 本)の
2方針を提案しました。

方針(1)では下顎の右側抜歯部位を先天欠如している2番としたので上顎右側4番抜歯に対し下顎右側の抜歯スペースが少なくなり矯正治療後の噛み合わせにおいて上下顎前歯の重なりが小さくなる事が予測されました。そのため方針(2)を提案し抜歯本数は多くなるものの噛み合わせを深くする方針を提案しました。診断時に予測模型を提示しYさんと相談のうえ、方針(1)で矯正治療を行う事としました。

■動的治療開始時

初期治療により口腔衛生状態が改善してから上顎左右4番、下顎左側4番を抜歯して矯正治療を開始しました。噛み合わせが深く下顎に装置をつけられないため上顎から装置を装着しました。

■動的治療終了時

顔貌・口腔内所見

動的治療後の評価では、抜歯スペースにより叢生の改善、上顎前歯の後退を行いました。

X線写真所見

動的治療後の評価では、パノラマX線写真において歯根平行性、歯根吸収にあきらかな問題は認められませんでした。セファロX線写真において上顎前歯の後退により上下口唇の後退を確認できました。下顎は抜歯が左側4番のみなので下顎前歯の後退はわずかとなりました。

動的治療前後の比較





■う蝕(むし歯)と歯周病のトータルリスク比較

う蝕のリスク評価としてカリオグラムを行っています。カリオグラムは、歯科先進国スウェーデンのスウェーデン王立マルメ大学う蝕予防学教室のグンネル・ペターソン博士によって開発され、その予後の妥当性について多くの論文で評価されて信頼度の高いう蝕リスク診断プログラムです。

歯周病のリスク評価としてOHISを使用しています。OHISは歯科先進国アメリカのワシントン大学歯学部教授ロイ・C・ページ先生を中心とした歯周病専門医のグループによって開発されて歯周病のリスク診断プログラムです。

う蝕のリスク比較

う蝕のリスクは初診時「12」→動的治療終了時「11」と大きなリスクの減少はなく、中程度のリスクのままとなりました。また、カリオグラムによる1年以内にう蝕を避ける可能性は初診時「13%」→動的治療終了時「41%」とわずかに上昇(う蝕になるリスクは減少)しました。う蝕のリスクが大きく低下しなかった理由として5分間の唾液分泌量が矯正治療前後で2mlと少ないまま変化しなかった事、唾液の緩衝能(酸性に傾いた口腔内を中性に戻す力)が低い事が原因と思われました。しかし、むし歯の原因菌が検出されなかった事でこれまでむし歯になった歯はなく、矯正治療中に新たなむし歯の発生もありませんでした。

初診時カリオグラム

動的治療終了時カリオグラム

カリオグラムによる「う蝕を避ける可能性」の変化

*「う蝕を避ける可能性」は上昇しう蝕のリスクは減少している

歯周病のリスク比較

歯周病のリスクは初診時「6」→動的治療終了時「3」に変化し減少しましたが、OHISでは病状が初診時「3」→動的治療終了時「5」、リスクが初診時「1」→動的治療終了時「2」に上昇しました。これは、歯肉からの出血等は初診時より改善したものの、親知らずの萌出により下顎左右7番の遠心ポケットが深くなった事が原因と思われます。

OHISでのリスク変化

PCR、BOP、4mm以上のポケットの比較

●PCR(むし歯と歯周病の原因菌の付着を示す歯の磨き残し)
●BOP(歯周病の原因菌による炎症を示す歯肉からの出血)
●4mm以上の歯周ポケット(歯周ポケットが4mm以上になると歯周病の原因菌による歯槽骨の破壊)

5分間刺激唾液分泌量の比較

■考察

本症例は下顎右側2番の先天欠如がなければ上下顎前歯部に叢生を伴う両突歯列(上下顎前突)の症例であったと思われます。その場合の理想的な抜歯部位は上下顎左右4番ですが右側の2番が先天欠如であったために右側の抜歯は行わずに矯正治療を行いました。下顎右側4番(近遠心径8mm)抜歯の場合と2番(近遠心径6mm)抜歯で抜歯スペースを比較すると約2mmの差があり、この差により上顎前歯に対して下顎前歯は後退できず歯の重なりが少なくなると予想しました。実際の仕上がりでは右側の臼歯関係を軽度のII級に仕上げる事で許容範囲の前歯の重なりで安定した咬合を得る事が出来ました。抜歯本数が少なく抜歯スペースが少ない事で微調整が難しく治療期間が40ヵ月かかってしまった事が反省ですが治療結果は良好であったと考えます。

予測模型による2方針の比較

本症例は唾液分泌量が少なくむし歯のリスクが高いもののむし歯はなく、矯正治療後も新たなむし歯をつくる事はありませんでした。これは幼児期にむし歯の原因菌に感染しなかった事が大きな要因と思われます。しかし、むし歯の原因菌がまったくいないわけではない事、歯の磨き残しが増えると別のむし歯の原因菌が増える事、加齢により歯周病が進行すると酸に弱い歯根が露出する事でむし歯になりやすくなる事、加齢に伴いさらに唾液が減少する可能性がある事などから、現在のむし歯のない状態を維持するためには加齢に備えてメインテナンスを継続していく必要がある事を伝え、リテーナーの管理とメインテナンスを行い歯並びと噛み合わせをさらに安定させるようにしています。

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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
費用(自費診療)
約1,164,000円~1,339,000円(税別)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
歯根吸収が起きる可能性があります