| まず中心位についてですが、歯科医師であれば必ず講義を受けていますのでその意味は理解していますが、その位置の<定義>については変遷の歴史があり、今でも論争が続いていてのが実情です。したがって、もなさんがどの本を読まれたか分かりませんが、読まれた本の著者の考え(学派)が必ずしもすべてではない、ということは知っておいてください。 中心位は、下顎頭が下顎窩内で最後方位(最後退位)に位置し、咬頭嵌合位と一致していることが望ましい、としたのがGnathology(ナソロジー)学派で、1980年頃までの主流でしたが、実際の咬合の中では中心位と咬頭嵌合位との差が無視できなくなり、ロング・セントリックやワイド・セントリックという概念が台頭してきます。 これら器械的な研究に対し、解剖学的研究や筋電図などによる定量研究から、咬頭嵌合位の顆頭位は顆頭安定位であり、顆頭の最後退位ではない(平均0,55ミリ後上方になる)ことが実証されました。 そして、顆頭位を考えるときには、その間に介在する関節円板の位置が重要な要素をであるとされ、咬合論から顎関節症への解明と繋がっていきます。この結果、顎関節症の治療はすべて咬合治療で治せる、という考え方が蔓延した時期がありましたが、近年では反省を含め、当時と考え方や対処は大分変っています。
話が横道にそれているのを承知で書いていますが、本題の<矯正医は下顎の‘中心位’というものを考慮して咬合を構築しているものなのでしょうか?>については、「考えてはいるが、それをどう考え、どう対処ししているかは、その矯正医のもつ咬合論による>というのが回答です。 矯正医でもいわゆる機能論者は、顎位の決定に咬合を咬合器にトランスファー(再現)させ、それぞれの顎機能検査による結果に基づいてスプリントを入れたりしますが、顎位の失われた要義歯(補綴)患者の場合には、咬合器にトランスファーするのは必然としても、矯正患者の場合は天然の咬合器の中で歯牙の配列を行なっているようなものですから、その都度、器械的誤差が生ずる恐れを秘めた咬合器へトランスファーするのは、あまり意味がありません。 矯正医は矯正臨床の中で、習慣的に下顎を手指で誘導しながら、顆頭安定位と咬頭嵌合位との差を確認しています。その差がどの程度であれば許される範囲かは、学術(研究)上の数値や補綴学的理論値と異なるかもしれませんが、もなさんのケースはそういう問題より、矯正臨床上の技術的問題に起因しているように思います。
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