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ドキュメンタリー矯正治療 / ステップ34

保定(リテーナー装着)期間中の変化

今回と次回のドキュメンタリー矯正治療では、保定期間中のむし歯や歯周病予防方法、噛み合せや歯並びの変化、保定から矯正治療完了について報告します。矯正治療の完了までを報告しドキュメンタリー矯正治療は完結します。

保定開始後の初期治療

矯正治療開始前から唾液検査と歯周基本検査を行なってむし歯や歯周病のリスクを下げ、矯正治療期間中も毎回クリーニングをおこなっていたとしても長期間矯正装置を装着することで装置の周りに細菌が付着しリスクが増加している場合があります。そこで、リムーブ時に再度唾液検査と歯周基本検査をおこない、むし歯と歯周病のリスクを確認してリスクを下げるための初期治療をおこないます。

ドキュメンタリー矯正治療の患者は衛生士であるため、口腔内の状態は矯正治療後でもむし歯と歯周病のリスクに大きな問題はありませんでした。しかし一般の患者さんでは、リスクが少なからず認められるのでリスクを減少させるために初期治療に数回通っていただく場合が殆どです。

本症例のリムーブ時の検査では、歯と歯の間に僅かに磨き残しがあったこと(PCR17.5%)、歯肉からの出血(BOP9.5%)を認めました(ドキュメンタリー矯正治療2007年9月「リムーブ後の検査」参照)。そこで歯科医院でおこなうプロフェッショナルケアとして、歯と歯の間の隣接面、歯と歯肉の間の歯肉溝内のバイオフィルムの除去を超音波スケーラーと手用スケーラーで除去しました。また、家庭でおこなうホームケアとして、ワイヤー装着していた動的期間中は充分におこなうことができなかった家庭でのフロス使用の徹底、歯と歯肉の間をマッサージし血行促進するブラッシングの徹底をしてもらいました。

特に下顎前歯唇側は矯正治療期間中に装着されていたゴムをかけるためのフックがあったこと、大臼歯部はバンドが装着されていたことでバンドと歯肉の間の衛生状態が低下し、歯肉が腫脹する歯肉炎になっていましたが初期治療により改善しました。

フックがあったことで下顎前歯の歯肉が腫れている

リムーブ後の初期治療で腫れが改善

バンドを装着していた歯肉が腫れている

リムーブ後の初期治療で改善

保定開始後のメンテナンスとホワイトニング

保定開始後の初期治療が終わると、来院間隔は検査結果のリスクの状態に合わせて2~4か月に1度に変わり、リテーナーチェックとむし歯と歯周病予防のためのメンテナンスになります。むし歯と歯周病の原因である細菌の固まりバイオフィルムは、1度除去しても約3か月で再度付着し放置すると除去しづらくなります。メンテナンスではバイオフィルムの状況に合わせて様々な器械により除去します。また、肉眼では見落としてしまうバイオフィルムを染め出し液で着色し確認しながら除去し、患者さんのブラッシングが不十分な部位を指導しサポートをおこなっていきます。

保定期間のメンテナンスで注意しなければならないのは、固定式の保定装置周囲です。固定式の保定装置は、通常歯の裏側に接着し接着剤は歯と歯肉の境目付近まで広がっているため、歯肉溝(歯と歯肉の間の溝)内にバイオフィルムが浸入し増殖し歯肉炎になりやすくなるため注意深いブラッシングが必要です。しかし、装置が歯の裏側に装着され患者さんから直視できず磨きにくいため、歯肉は腫れたり出血しやすくなります。そこで、リテーナー期間中は固定式の保定装置の周囲に溜まった歯石やバイオフィルムを徹底して除去するように注意します。

また、固定式の保定装置が部分的に外れてしまうことがあり、そのままにしておくと装置の裏側にバイオフィルムが形成されむし歯や歯周病の原因となります。その様なことがないように装置が外れていないか確認して外れている場合は再接着をしたり、装置を作り替えたりして対応します。

初期治療後には歯肉も引き締まっているのでホワイトニング剤による痛みが現われにくくなります。従来に比べて矯正治療に対する患者さんの審美的な要求は高まっていますので矯正治療で歯並びをきれいにするだけでなく、歯1本1本も白くしてより綺麗にするホワイトニングを希望される方も多く、ひるま矯正歯科ではこの時期にホワイトニングの対応が可能となります。

ホワイトニング前

ホワイトニング後

保定開始後の噛み合せの変化と保定期間

実は動的治療終了時の仕上がりでは、上下の最後方臼歯はあまり強く接触させていません(噛ませていません)。この様な状態を専門的にはディスクルージョン(臼歯部の離開)と呼び、わざと噛ませない状態にしておいて保定期間中に臼歯が自然に挺出してくる(噛む方向に移動する)変化を促すためです。
私たちは、患者さんの歯並びに合わせてワイヤーを曲げることで歯の位置をミリ単位でコントロールすることが可能です。しかし、お口の中は紙のような薄いものを噛んでも感じ取れるくらい敏感な器官であり、患者さんの噛み合せの感覚を完全に把握することのできない歯科医師がワイヤーの調整だけで完璧にコントロールはできないので、最後の仕上げは患者さんの自然な変化に任せているのです。そして、この自然の変化の中で矯正治療によって人工的に作り出された歯並びが、患者さんの筋肉や粘膜、噛む力に合わせて調和のとれた真に機能的な歯並びとなるのです。したがって、一般的には保定期間中に少し噛み合せは変化しますが、この変化は徐々に噛みやすくなる変化です。

この変化の中で歯は噛みやすい方向に動きますが症例によっては矯正歯科医の期待を裏切る好ましくない変化も起きることがあります。好ましくない変化に対しては、その変化の原因を把握し、再調整をおこなうかどうか患者さんと相談するのですが、再調整をするためにはブラケットやワイヤーを再度装着しなければならない場合が殆どなので、再調整をしないように診断し動的治療できちんと仕上げておくことが大切なのです。

保定開始直後のディスクルージョンされた最後方臼歯

保定開始6か月後の咬合が安定してきた最後方臼歯
保定開始から約6か月後

ドキュメンタリー矯正治療では、上顎の側切歯が小さい矮小歯であったため保定期間中にスペースができやすいことを予測して診断し丁寧に仕上げて動的治療を終了しました。また、審美的な問題となりやすい上顎前歯部にスペースができにくいよう配慮し、上顎犬歯間に固定式の保定装置を装着しました。このため、犬歯間にスペースはできませんでしたが特に小さい上顎左側側切歯に隣接する同側犬歯の遠心(後側)にスペースができてしまいました。このスペースはブラケットを装着すれば閉鎖することが可能ですが、再装着したブラケットを除去すればまたスペースができてしまう可能性があります。したがって、スペースができてしまった場合は根本的な原因は歯が小さいことであるためブラケットの再装着はせず、完了後に気になるようであれば矮小歯にプラスチック(レジン)やセラミックを接着して対応する方針としました。

保定開始時(上顎咬合面)

保定開始時のスペースが閉鎖された状態

保定開始6か月後(上顎咬合面)

保定開始6か月時にスペースを認めた

完了時(上顎咬合面)

完了時のスペース

保定期間については様々な研究報告がありますが、「矯正治療の仕上がりが完璧であれば保定は必要ない」とするものから「永久に保定しておいた方が良い」と言うものまで様々です。ひるま矯正歯科では保定の期間はおおむね2年と考えており、症例により期間を変化させています。これは、保定装置とは言え口腔内に存在する異物であり、特に固定式装置の場合はむし歯や歯周病の原因となる細菌増殖の温床となりますので、保定期間を長期化することは患者さんにとって良いことではないものの一定期間の保定装置は必要と考えているからです。

上顎の固定式保定装置は歯肉に近づけて接着しなければならないために歯肉が腫れやすい

下顎の固定式保定装置は歯石が付着しやすく歯肉が腫れやすい

Dr.ヤスアキのほっと一息

良い矯正治療では、保定期間中に歯が動くことで動的治療終了時(リムーブ時)よりしっかりと噛めるようになり長期的に安定する歯並びと噛み合せになります。一方、保定期間中にリテーナーを使っていても歯並びが噛みにくく変化しリテーナーがきつくなり入らなくなる場合があります。この様な極端な例は、矯正治療で創られた新しい歯並びが顎骨、唇、頬の粘膜、舌、噛むための筋肉など硬組織及び軟組織と調和していないために起きてしまう現象です。原因は、矯正治療の方針に無理がある場合や充分な矯正治療の仕上げではなかったことが原因であるため、何度リテーナーを作り直したとしても歯並びと噛み合せを維持することはできません。維持させるためには診断からやり直したり、仕上げをやり直さなければなりません。しかし、患者さんは動的治療が終了するまでそのことに気づくことができないため、私たち矯正歯科医は保定期間中に安定する無理のない治療方針、充分な仕上げをしなければならないのです。

本当に良い矯正治療は、保定期間にわかるのです。


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