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ドキュメンタリー矯正治療 / ステップ33

X線写真の比較

頭部X線規格写真(セファロ)の重ね合わせ

セファロは外耳孔(耳の穴)をイヤーロッドで固定して撮影する規格化された画像なので、精度の高い治療前後の比較が可能です。
そこで初診のセファロとリムーブ時のセファロをトレース(骨の外形線)し重ね合わせることによって治療前後の変化がよく分かります。

セファロの重ね合わせでは

  1. 頭蓋(S点)を基準とした顎顔面全体の重ね合わせをおこない全体の変化を評価します。
  2. 上顎骨、下顎骨の基底部を基準にした重ね合わせをおこない上下顎骨それぞれにおける歯列の変化を評価します。
  3. 鼻尖部(鼻の尖端)基準にした軟組織の重ね合わせをおこない、鼻から口元にかけての軟組織の変化を評価します。

一般的な学会や研究会では初診時を黒のラインリムーブ時(矯正装置除去時)を赤のラインでトレースしますので今回も一般的な方法で説明します。

初診時側面セファロ
初診時側面セファロ

リムーブ時側面セファロ
リムーブ時側面セファロ

初診時に比較して上下顎前歯が後退し、口唇の突出感が改善したことが分かります。しかし、下顎骨は反時計方向に回転したためオトガイ部(下顎の最前方部)硬組織は僅かに突出する傾向を認めましたが、軟組織の厚みが減少(体重減少による皮下脂肪等の減少)によりオトガイ部軟組織の変化は認められませんでした。

初診時側面とリムーブ時セファロをS点(頭蓋骨下垂体窩の中心)で重ね合わせたトレース図
初診時側面とリムーブ時セファロを
S点(頭蓋骨下垂体窩の中心)で重ね合わせたトレース図

黒いラインが初診時赤いラインがリムーブ時

上下顎骨の重ね合わせでも上下顎前歯が後退(舌側に移動)したことが分かります。また、下顎の大臼歯が初診時に比べて圧下(下方に移動)されています。このために全体の重ね合わせで示されたような下顎骨の反時計方向の回転が起きたと考えられました。鼻尖部で重ね合わせた軟組織の評価でも口唇の突出感が改善されたことが分かります。

初診時側面とリムーブ時セファロを、上顎骨はANS点、下顎骨はMe点で重ね合わせたトレース図(左)と初診時側面とリムーブ時セファロ軟組織を、nose tip(鼻の尖端)で重ね合わせたトレース図(右)

初診時側面とリムーブ時セファロを、上顎骨はANS点(上顎骨基底部の最前方点)、下顎骨はMe点(下顎骨基底部の最下方点)で重ね合わせたトレース図

黒いラインが初診時
赤いラインがリムーブ時

初診時側面とリムーブ時セファロ軟組織を、nose tip(鼻の尖端)で重ね合わせたトレース図

黒いラインが初診時
赤いラインがリムーブ時

パノラマX線写真

歯根のパラレリングや歯槽骨の変化を確認するために撮影します。パノラマX線写真はセファロのように規格化されていないため、重ね合わせをおこなうことはできません。本症例では矯正治療期間中に親知らず(下顎第3大臼歯)が抜歯され、抜歯された後の骨も修復され完全に治癒しています。

初診時パノラマX線写真

初診時パノラマX線写真

リムーブ時パノラマX線写真

リムーブ時パノラマX線写真

口腔内模型

口腔内写真は撮影方向などによって歯の角度が変わって見えてしまいますが、口腔内模型は実際の歯や顎骨を同じサイズで立体的に再現した資料なので見る角度によってサイズが変わると言うことはありません。そこで初診時とリムーブ時の口腔内模型をならべて比較し観察することにより、歯の位置変化や歯列弓形態の変化を正確に把握することが可能となります。以下の写真は、初診時の口腔内模型にのシール、リムーブ時の口腔内模型にのシールを貼り、模型を並べて同時に撮影した写真です。

口腔内写真と同様に、スペースが閉鎖され左右対称のアーチ型に改善したこと、上下歯列の前後径が短くなったことが分かります。

初診時とリムーブ時の口腔内模型(正面)

初診時口腔内模型(正面)

リムーブ時口腔内模型(正面)

初診時とリムーブ時の口腔内模型(右

初診時口腔内模型(右)

リムーブ時口腔内模型(右)

初診時とリムーブ時の口腔内模型(左

初診時口腔内模型(左)

リムーブ時口腔内模型(左)

初診時とリムーブ時の口腔内模型(上顎

初診時口腔内模型(上顎)

リムーブ時口腔内模型(上顎)

初診時とリムーブ時の口腔内模型(下顎

初診時口腔内模型(下顎)

リムーブ時口腔内模型(下顎)

考察:症例をふり返ってみて

本症例では初診時に以下のような目標を立てました。

初診時の目標

動的治療期間18~25カ月
治療目標1:上下歯列のすき間を閉じ、矯正治療後も安定する噛み合わせにする
治療目標2:上下前歯の後退により、口唇の突出感を改善する(但し、口唇周囲の軟組織が余っている感じがあるため前歯の後退による口唇の突出感の改善は軽度であるかもしれません)

今回の症例では動的治療(矯正装置装着)期間が27カ月かかりました。したがって、初診時に設定した治療期間より長くかかってしまったことが反省すべき点です。

治療期間が長くかかってしまった理由は、治療期間中に上下顎骨の位置関係が安定するための時間が予想より長くかかってしまったこと、咬合力が強く歯の移動に時間が予想より長くかかってしまったこと、担当医と患者である歯科衛生士が実際の診療(ひるま矯正歯科での診療)で忙しく治療が効率良く進まなかったことが挙げられると思います。

治療目標である「すき間(空隙)」を閉鎖し「口唇の突出感を改善する」と言う目標はほぼ達成できたのではないかと考えております
予想外の変化としては、やや小さい側切歯でも比較的安定した咬合を得られたこと、下顎骨が反時計方向に回転してしまったが側貌にはあまり影響がなかったこと、上下顎前歯後退にによる口唇後退の反応が予想より良かったことが挙げられます。

今後は、リムーブ時の検査で確認された歯肉からの出血(初期の歯肉炎)をPMTCや歯石除去によるメインテナンスで管理し、リテーナーの点検をおこないながら咬合状態がより安定する様に維持します。

Dr.ヤスアキのほっと一息

今回のドキュメンタリー矯正治療で御説明したように、矯正治療による変化は大まかな予想はできるものの、歯の動きや軟組織の詳細な変化までは予想ができず、常に予想外の変化が起きると言えます。
本症例では治療期間が予想より長かったこと以外、明らかな治療上の問題点は見つからなかったものの、いくつかの予想外の変化は起きました。この様な予想外の変化は、全て治療上問題となるものではありませんが、中には問題となる変化が発生し治療結果に悪影響を与えます。

危機管理を的確におこなうには「常に最悪の事態に備え、情報収集を怠らず、問題点があれば早急に対応することが重要である」と言われています。

矯正治療でも、いつ問題となる様な変化が起きても良いように、治療開始前にベースラインとして規格性のある資料を採取し、治療中も定期的に資料をとり情報収集をおこない、問題となる変化に早めに気づき対応していくことで治療に対する悪影響を最小限に食い止めることが可能です。

また、治療後にこれらの資料を通して治療結果を分析し考察することで、治療中には気づいていなかった変化や問題点に気づくことも可能です。この様な治療をふり返り分析し考察を繰り返すプロセスを継続的に維持することが、次に経験する同様な症例で、起りうる治療上の問題点を治療開始前から予測でき、徐々に、より質の高い治療が可能になる(治療技術の進歩)と思われます。

高い治療技術を維持し、全ての患者さんに安心して治療を受けていただき、矯正治療を成功に導くためには、「私にしかできない特殊な技術」や「最新の治療技術」より「適切な資料を取りながら治療をふり返ること」がより必要なことと私は思います。


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