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症例紹介25/Nさん「中立咬合 叢生歯列」

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Nさん「中立咬合 叢生歯列」

初診時の診断:「中立咬合 叢生歯列」

今回は、上顎歯列の狭窄、大臼歯関係がAngle class IIで多数歯抜歯(上顎4本、下顎2本)をしなければ治療が難しいと予想していたものの、矯正治療に対する反応が良かったため通常の抜歯本数(上顎2本、下顎2本)で治療をおこない保定完了までおこなったNさんの症例解説をおこないます。

■初診時

現症および主訴

初診時年齢は16歳の女性です。上下顎前歯部の叢生の改善を希望されて当院を受診されました。

※以下より画像をクリックすると大きい画像が見れます。

顔貌所見

正貌における明らかな非対称性は認められませんでした。口唇閉鎖時の口唇周囲軟組織の突出感および緊張感は顕著ではありませんでした。

初診時 側貌

初診時 側貌

口腔内所見

臼歯関係は左右ともにAngle class II(アングルの2級)で、上顎大臼歯が下顎大臼歯に対して近心(前方)に位置していました。上顎歯列幅は狭窄していて側方歯は交叉咬合を呈しており咬合も不安定な状態となっています。上顎歯列幅の狭窄により、下顎歯列に比較して上顎歯列の叢生が重度でした。

初診時 上顎

初診時 右側初診時 正面初診時 左側

初診時 下顎

X線写真所見

頭部X線規格写真(セファロ)により、上下顎骨の前後的な位置関係に大きな問題はないものの歯の並ぶ前後的な奥行きがなく、骨格的に叢生になりやすい傾向を認めました。パノラマX線写真では下顎に第3大臼歯(親知らず)の埋伏を認めました。

パノラマX線写真

唾液検査・歯周組織検査

唾液検査では、むし歯の原因菌であるミュータンス菌が検出されるもののラクトバチラス菌はほとんど検出されず磨き残しが多くむし歯のリスクが高いことがわかりました。また、歯肉からの出血を広範囲に認め歯周病のリスクも高いことがわかりました。

特記事項

特記事項はありませんでした。

■治療方針

診断は Angle class II・交差咬合・叢生歯列としました。
主訴である叢生を改善するために、抜歯によりスペースを確保する必要がありましたが通常の症例では上下顎第1小臼歯(4番)の抜歯により叢生を改善して、残ったスペースを利用して臼歯関係を改善します。しかし本症例では叢生が重度であったため臼歯関係を改善するスペースが不足すると考え、さらに上顎左右側切歯(2番)の抜歯が必要と予想しました。

しかし、矯正力に対する歯の適応能力が予想を超えて高い場合には2番の抜歯をしなくても済む可能性があると考え、上下顎4番を抜歯して矯正治療を開始し、治療途中で再評価して2番抜歯の必要性を再検討することとしました。上下歯列の幅を合わせるメカニクスはクワドヘリックスや拡大床などの特殊な装置は使わずレクトワイヤ(角ワイヤー)で対応することとしました。

矯正治療開始前に、むし歯と歯周病の予防方法やメインテナンスの重要性を説明し、徹底したPMTC(歯科衛生士による歯面クリーニング)、スケーリングによる歯石除去、フッ素の使用法やブラッシング方法の指導などを中心とした家庭での口腔衛生管理方法の改善のための初期治療をおこない、むし歯と歯周病のリスクが減少したことを確認してから矯正治療を開始することとしました。矯正治療中もリスクが再度上昇するので毎回のワイヤー調整時に上下のワイヤーを外して全顎的に歯肉縁上縁下のバイオフィルムを除去するためのクリーニングによるメインテナンスをおこなうこととしました。

■動的治療開始時

初期治療後に再評価をおこない、歯の磨き残しがほとんどなくなり、歯肉からの出血もなくなり、家庭でのフッ素使用も可能となったので、上下顎左右第1小臼歯(4番)の抜歯をおこなってから上下顎に矯正装置を装着して治療を開始しました。

動的治療開始時

動的治療開始時 上顎

動的治療開始時 右側動的治療開始時 正面動的治療開始時 左側

動的治療開始時 下顎

再評価(動的治療開始から7ヵ月後)

動的治療を開始して7ヵ月後に再評価をしてNさん本人とご家族に対してカウンセリングをおこない、これまでの反応でNさんの治療に対する協力が良いこと、歯の矯正力に対する反応も良好で上顎の大臼歯の近心傾斜が改善され臼歯関係がAngle class Iに近づいてきたことなどから、上顎2番の抜歯はせずに治療する方針としました。

・	再評価時(動的治療開始から7ヵ月後) 上顎

再評価時(動的治療開始から7ヵ月後) 右側再評価時(動的治療開始から7ヵ月後) 正面再評価時(動的治療開始から7ヵ月後) 左側

再評価時(動的治療開始から7ヵ月後) 下顎

■ 動的治療終了時

動的治療期間および経過

実際にかかった動的治療期間は約28ヵ月、調整回数は29回、平均的な来院間隔は1ヵ月でした。無断キャンセルなどはなく歯の移動はスムーズであったこと、顎間ゴムの協力が良かったことなどから治療がスムーズに進み予想よりもわずかに短い治療期間で動的治療を終えることができました。

顔貌所見

矯正治療による下顔面高が大きくなったり口唇のバランスが悪化するような変化は起きませんでした。

動的治療後 側貌

動的治療後 顔貌

口腔内所見

上下歯列の抜歯スペースは叢生の改善により閉鎖され、上顎歯列の幅が大臼歯の頬舌的な傾斜により拡大され側方歯の交叉咬合が改善しましたが、理想的な状態に比べて拡大がわずかに不足していました。歯肉からの出血はほとんど認めないものの歯肉は腫脹していました。

動的治療後 上顎

動的治療後 右側動的治療後 正面動的治療後 左側

動的治療後 下顎

■保定完了時

動的治療終了後に上顎にはベッグタイプリテーナー、下顎はFSWを接着して保定を28.3ヵ月おこないました。保定期間中には動的治療終了時の唾液検査結果を元にリスクを下げる初期治療をおこなってから、約3ヵ月に1回のリテーナーチェックとメインテナンスをおこないました。

顔貌所見

保定期間中に大きな変化は認めませんでした。

保定完了時 側貌

保定完了時 顔貌

口腔内所見

上顎の拡大された歯列の幅は維持されていて咬合は安定していました。わずかに上顎2番が舌側に移動してきています。動的治療終了時に比べて歯肉は引き締まっていますが、わずかに歯肉の腫れがあり軽度の歯肉炎をみとめました。

保定完了時 上顎

保定完了時 右側保定完了時 正面保定完了時 左側

保定完了時 下顎

X線写真所見

X線写真所見では、明らかな歯根吸収や歯槽骨吸収などを認めず歯根もほぼ平行に配列されています。保定期間中に8番が徐々に萌出してきたため抜歯をしました。
セファロX線写真の重ね合わせにより上顎大臼歯が遠心に移動することで臼歯関係がAngle class Iに改善したこと、動的治療後も後戻りが起きていないことがわかりました。下顎骨の回転により下顔面高が大きくなったり、オトガイ部の後退感が強くなるような変化も認められませんでした。

セファロ重ね合わせによる比較 セファロ重ね合わせによる比較

――初診時 —-動的治療終了時 ――保定完了時 の順序で色分けし重ねあわせをおこなっています。
動的治療終了時の赤い線があまり見えないのは保定完了時の緑の線と重なっているためで、保定期間中に歯の後戻りなどの大きな変化がなかったことを示しています。

大臼歯関係の変化

【初診時】
初診時:上顎の第1大臼歯近心頬側咬頭(▼)が下顎第1大臼歯頬面溝(▲)に対して近心(前方)に位置するAngle class IIを呈している
上顎の第1大臼歯近心頬側咬頭(▼)が下顎第1大臼歯頬面溝(▲)に対して
近心(前方)に位置するAngle class IIを呈している

【動的治療終了時】
動的治療終了時:上顎の第1大臼歯近心頬側咬頭(▼)と下顎第1大臼歯頬面溝(▲)が一致するAngle class I(理想的な臼歯の位置関係)を呈している
上顎の第1大臼歯近心頬側咬頭(▼)と下顎第1大臼歯頬面溝(▲)が一致する
Angle class I(理想的な臼歯の位置関係)を呈している

【保定完了時】
保定完了時:動的治療終了時と同様に上顎の第1大臼歯近心頬側咬頭(▼)と下顎第1大臼歯頬面溝(▲)が一致するAngle class I(理想的な臼歯の位置関係)を維持している
動的治療終了時と同様に上顎の第1大臼歯近心頬側咬頭(▼)と下顎第1大臼歯頬面溝(▲)が
一致するAngle class I(理想的な臼歯の位置関係)を維持している

う蝕と歯周病のトータルリスク比較

う蝕と歯周病のトータルリスク比較

う蝕のトータルリスク比較

う蝕のトータルリスクは初診時「13」→動的治療終了時「10」→保定完了時「10」と減少し安定しました。これは、歯の磨き残しであるPCRやフッ素の使用状況によるリスクが減少したことによるものと思われます。特に矯正治療により叢生の改善と咬合が安定したことにより歯が磨きやすくなったことで磨き残しが減少したと考えられました。

う蝕のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスクは初診時「5」→動的治療終了時「4」→保定完了時「3」と減少し安定しました。初診時の歯肉炎(歯肉からの出血)は初期治療により改善され、その後の矯正治療期間中も定期的に歯肉炎の原因である歯と歯肉の間のクリーニングやNさん自身がご自宅で丁寧な歯磨きをしていただいたことでリスクが減少しました。

しかし、保定期間に入り来院間隔が3ヵ月に一度になったこと、成人になり歯周病のリスクが高まってきたことで再度歯肉炎の傾向を認め歯肉からの出血が増加したのではないかと考えられました。

歯周病のトータルリスク比較

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)
PCR(むし歯と歯周病の原因菌の付着を示す歯の磨き残し)
BOP(歯周病の原因菌による炎症を示す歯肉からの出血)
4mm以上の歯周ポケット(歯周ポケットが4mm以上になると歯周病の原因菌による歯槽骨の破壊)

■ 考察

上顎骨は、骨と骨の間に縫合部があり成長期にある小児の場合はその縫合部を広げることで歯列の拡大が可能です。しかし、本症例のように成長が終了していると上顎骨を広げることは殆どできず歯の傾斜により歯列を拡大しなければなりません。このような拡大方法はその拡大可能な量が症例により差が大きいこと、動的治療後に後戻りしやすいことを留意して治療に臨まなければなりません。また、歯は生理的に近心に移動してくるので近心傾斜している歯を遠心に移動して安定させることも困難な治療になります。

本症例では、上顎歯列の拡大と大臼歯の近心傾斜の改善という難しい歯の移動が治療計画に含まれていたため抜歯本数が多くなる可能性が高いことを治療開始前に説明してから治療を開始しました。しかし、治療開始前の予想よりもNさんの歯は矯正力に高い適応力を示し動的治療後も大きな変化が現れず安定することができました。矯正専門の先生方に本症例を見てもらったのですがやはり非常に厳しい症例と印象を持たれた先生が多く「小臼歯4本の抜歯でよく治ったね」と感想を言ってくださる方も多くいらっしゃいました。臨床では、予想通りに進まず理想的な治療結果を出せないこともありますが、本症例は私の予想を超えて良く治ってくれた症例と感じています。

う蝕のリスクや歯周病のリスクは治療の経過とともに減少し安定していきました。しかし、初診時より歯肉炎を認めており、リスク検査後の初期治療で集中してPMTCや歯石除去をおこなうと改善するものの間隔を開けたメインテナンスに入ると徐々に歯肉炎が再発する傾向を認めました。現在Nさんは20代前半ですが20代後半になると歯周病のリスクはさらに高まりますので、現在からメインテナンスをしっかりとおこなうことで将来の歯周病進行を阻止しなければならないと考えます。したがって、矯正治療に関する管理は保定管理の終了をもって完了となりますが、今後はメインテナンスでNさんの歯並び、噛み合わせ、歯と歯槽骨を守りたいと考えています。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
費用(自費診療)
約1,164,000円~1,339,000円(税別)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
歯根吸収が起きる可能性があります