初診時の診断:「上下顎前突・他院での再矯正治療症例」
現症及び治療開始までの経過
Aさんの治療開始までの経過はやや特別な経過でした。経過を以下に示します。
Aさん16歳:ひるま矯正歯科初診
検査・診断までおこない、上下顎前突(両突歯列)及び叢生歯列により抜歯による矯正治療が必要と診断。
*当時の診断は先代の院長である私の父が担当しました。抜歯が心配と言うことで当院での治療は中止となりました。
Aさん17歳:都内の矯正歯科
都心部の矯正歯科にて非抜歯による治療を約2年半かけておこなう。
Aさん20歳:ひるま矯正歯科再診
非抜歯により歯列が拡大し、口が閉じにくくなってオトガイ部の緊張感も強くなったので改善を希望して再来院。
現症(ひるま矯正歯科再診時の症状)
- 上下顎前歯の唇側傾斜及び歯列の拡大による口唇の突出感及び口唇閉鎖時の口唇周囲
及びオトガイ部の緊張感 - スマイル時に軽度のガミースマイル
- 大臼歯部開咬
- 歯列弓の拡大により叢生は改善されていた
ひるま矯正歯科再診時に記入していただいたアンケート
【Aさん16歳:ひるま矯正歯科初診時の画像】
※以下より画像をクリックすると大きい画像が見れます。
*初診時は左側面を撮影していたので上記画像は反転処理をしています。
【Aさん20歳:ひるま矯正歯科再診時(非抜歯治療後)の画像】
診断及び治療方針
非抜歯による歯列の拡大で叢生の改善はされていましたが顎骨の基底部が拡大されている訳ではないので長期的には叢生の後戻りが懸念されました。したがって基本的な診断及び治療方針は初診時と同じ抜歯による矯正治療でスペースを確保し前歯を後退させる方針としました。
ただし、非抜歯矯正の影響により下記2点の問題が新たに生じているので初診時とは異なる対応が必要と考えました。
問題点1:軽度のガミースマイルおよび下顎骨が回転して下顔面が長くなっている。したがって上顎前歯及び臼歯を圧下してガミースマイルを改善しながら下顎骨を反時計方向に回転させ下顔面高を短くする必要がある
問題点2:非抜歯矯正の影響により上下大臼歯が遠心に傾斜して下顎第2大臼歯遠心部は歯肉に埋伏し清潔に保つことが困難になっていた。また大臼歯部が開咬となり咬合が不安定になっている。上下大臼歯を近心に移動かつ整直(咬合平面に対して歯軸を垂直に近づける)し咬合を安定させ、下顎第2大臼歯遠心部埋伏を改善する必要がある
治療方針としては小臼歯の抜歯に加えて、
上顎前歯部の圧下用2本、及び大臼歯の圧下用として4本の歯科矯正用歯科矯正用アンカースクリューを使用することとしました。
治療期間は30か月と予想して治療を開始しました。
治療結果
治療計画通りに治療を進め、動的治療期間は29か月20日間でほぼ予定通りの期間でした。
歯科矯正用アンカースクリューの使用により大臼歯は圧下され臼歯部の咬合高径が減少し下顎骨は顎関節部を中心とした反時計方向への回転をしました。この結果、下顔面高は動的治療開始時より短くなり、当院初診時(Aさん16歳時)と比較しても動的治療終了時の下顔面高が短くなりました。前歯も歯科矯正用アンカースクリューにより圧下されたのでガミースマイルが改善されました。
抜歯スペースを利用し上下顎前歯を後退し、大臼歯を近心に移動し遠心傾斜と遠心部の埋伏を改善しました。上下顎前歯が後退したこと、下顔面高が短くなったことにより口唇閉鎖時の軟組織緊張感は改善され、口唇を閉じた時に歯がはみ出すことがなくなりました。大臼歯は整直され全ての歯が緊密に咬合し臼歯部の開咬が改善され咬合は安定しました。咬合の安定により咀嚼能率が向上し、5分間刺激唾液が動的治療開始前の7.5mlに対し9mlに増加しむし歯のリスクも減少しました。
【動的治療終了時画像】
【治療期間中の経過写真】
考察
多くの患者さんは、Aさんと同様に矯正治療をおこなう際に歯を抜かずに治したいと考えます(非抜歯による矯正治療)。私たち矯正医もできれば非抜歯で治したいと考えていますが、実際の臨床では多くの症例において抜歯が必要で、無理な非抜歯の治療によりAさんと同様の問題が残ってしまうことが多いのです。
この様な問題を抱えている患者さんがどのくらいいるか正確な数字は分からないものの、膨大な数に昇ることでしょう。なぜこの様な患者さんが増えてしまうのでしょうか?理由は様々ですが、非抜歯による矯正治療の問題点を患者さんが治療の終了時でないと分からないことを利用して、経営上の利益のために患者さんに耳障りの良い非抜歯による矯正治療に安易に誘導する歯科医の責任が大きいと考えます。
この症例紹介によりAさんの様な思いをされる患者さんが少しでも減少してくれれば嬉しく思います。
永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安
- 治療内容
- オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
- 治療に用る主な装置
- マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
- 費用(自費診療)
- 約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額 - 通院回数/治療期間
- 毎月1回/24か月~30か月+保定
- 副作用・リスク
- 矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。