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ドキュメンタリー矯正治療 / ステップ17

矯正歯科治療におけるアンカレッジコントロール

では、実際の矯正歯科治療におけるアンカレッジコントロールとは、どの様におこなうのでしょうか?

例で示したヨットを「歯冠」、海を「歯槽骨」、ヨットの錨を「歯根」と考えてみましょう。

御説明するステージは、前回のドキュメンタリー矯正治療でお話したキャナインリトラクション

下顎の第1小臼歯を抜歯し犬歯をできるだけ遠心(後方)に移動したい場合の下顎右側のみの変化を想定し説明します。

犬歯を遠心に移動

アンカーその1

もし犬歯(黄色の歯)を遠心移動する際に、1番近い第2小臼歯(ピンク色の歯)だけにパワーチェーンをかけたとするとどうなるでしょうか?

第2小臼歯の歯根に比べて犬歯の歯根が長いため第2小臼歯のアンカーは、犬歯より弱い状態です。したがって犬歯と第2小臼歯をパワーチェーンによって引っ張り合った場合、犬歯のアンカーが強いので第2小臼歯が近心に来てしまい犬歯が遠心に移動できなくなるでしょう。

この様に、本来動かしたい歯(犬歯の遠心移動)ができずにアンカーである歯が動いてしまうこと(第2小臼歯が近心に移動してしまう)をアンカーロスと呼びます。

アンカーロス

アンカーその2

次にメインアーチがない状態で、1番後方にある第2大臼歯から犬歯にパワーチェーンをかけるとアンカーは第2小臼歯、第1大臼歯、第2大臼歯の3本(ピンク色の歯)がアンカーとなり、犬歯アンカーの3倍になります。

したがって犬歯が「3」の割合で遠心に移動するのに対して、第2小臼歯、第1大臼歯、第2大臼歯の3本は「1」の割合で近心移動すると考えます。

「アンカーその1」に比べて犬歯をより後方に移動させることが可能になります。

遠心移動 近親移動

アンカーその3

さらにメインアーチを装着しにストップループが入ることで、犬歯を移動する際の抵抗源としてのアンカーに前歯も含めることができます。

つまり・・・

犬歯からのパワーチェーンで第2大臼歯が近心(前方)に移動する力が働きます。しかし、メインアーチに曲げこまれたストップループが第2大臼歯のチューブに接しているため、第2大臼歯が近心に移動する力をメインアーチによって前歯に加わります。

この結果、犬歯を遠心に移動させるためのパワーチェーンの力は、第2大臼歯だけでなく前歯にも働き、前歯もアンカーとして参加することになります。

近心移動

その結果、メインアーチを装着し第2大臼歯のチューブにストップループを当てることで犬歯(黄色の歯)1本の遠心移動に対してその他の5本の歯(ピンク色の歯)全てが抵抗源として働くようになるのです。

歯の移動

実際のドキュメンタリー矯正治療では、パワーチェーンだけではなくオープンコイルという金属のバネで犬歯の遠心移動をおこないました。

以下に口腔内写真を呈示します。第1大臼歯のチューブにストップループを当て犬歯以外の歯をアンカーとして犬歯が充分に遠心移動できるアンカレッジコントロールをおこないました。

クリックすると拡大写真が見られます

オープンコイル ストップループ

Dr.ヤスアキのほっと一息

矯正治療の失敗、想定外のアンカーロス

今回、御説明したアンカレッジコントロールは一般の方にとって非常に分かりにくかったのではないでしょうか?

これは、矯正歯科の専門的な教育を受けていない歯科医師にとっても同様です(つまりアンカレッジコントロールがよく分からないという歯科医師は矯正歯科の専門的な教育を受けていないとも言えます)。

アンカレッジコントロールが矯正歯科治療の特殊性専門性の全てではありませんが、矯正歯科治療を理解する上で重要な因子の1つと言えるでしょう。

今回の解説では、アンカレッジコントロールを簡単に理解して頂くために引っ張り合う歯の数のコントロールを中心に解説しました。

実際の治療におけるアンカレッジコントロールでも、引っ張り合う歯の数の関係をコントロールすることは特に重要なものです。

しかし、歯をイメージ通り動かすためには、歯の数によるアンカレッジコントロールだけでは不十分です。アンカーとして用いる歯の数以外にも、歯の角度(歯軸の傾斜角度)や歯の捻転、歯を支える骨の状態、上下の歯が接触している状態、患者さん自身の噛む力(咬合力)、顔面骨格の形態、顎顔面の成長発育など様々な要因によってアンカーの強度は変化します。そのため、個々の症例によってアンカレッジコントロールの設定は大きく異なるのです。

また、長期に渡る矯正治療において、治療期間中のアンカレッジコントロールが正確にできているかの確認が常に必要です。もしコントロールができていない(アンカーロスが起きている)のであれば、「何が原因でアンカーロスが起きているのか」を判断し、迅速に対応しながら微調整することが必要です。

説明ではアンカーロスと簡単に書きましたが、このアンカーロスが起きているかどうかを見極めることこそ非常に難しいのです。もし、早い段階でアンカーロスを認識し対応することが出きれば、想定外の位置に歯が大きく動いてしまうことを防げます。逆に、アンカーロスを見過ごしてしまったり、対処方法を誤ってしまうと、想定外の位置に歯が移動してしまいます。

見過ごした期間が長ければ長いほど、歯は想定外の位置に大きく移動してしまいます。移動してしまった歯を元の位置に戻すためには、見過ごしてしまった時間と同じ時間(もしくはそれ以上の時間)がかかり、治療期間が長引いたり、噛めない咬み合せで矯正治療を終了してしまうことになるのです。

矯正治療による歯の移動は月に1ミリ程度、平均的な患者さんでは月に1度の診療です。月に1度の診療で患者さんのお口の中を診察して、24本~32本ある歯にアンカーロスが起きているのか否かを瞬時に判断することは、多くの治療経験を積んだ専門医でないと困難です。

また、経験を持った専門医でもアンカーロスが起きているか否か、またその対処法に苦慮する場面に遭遇することがしばしばあります。その様な場合に備えて、治療開始前や前回の治療内容を比較できる形で記録(規格化したX線写真、口腔内写真、口腔内模型など)してあることが矯正治療の明暗を分けることになるのです。

そして、メインアーチを「現在の治療ステージ」と「患者さんそれぞれの歯や顎骨の形態」に合わせて屈曲する技術や、どの様な種類のメインアーチを選択するのか、ストップループをチューブにきちんとあてて曲げるといった矯正歯科医の技術・能力の高さもアンカレッジコントロールが成功するか否かの鍵になってきます。

この様に、アンカレッジコントロールとは歯をイメージ通りに動かし、よく噛めて綺麗な歯並びにするために絶対に必要な能力であると考えます。

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