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症例紹介20/Kさん「上突咬合・両突歯列・叢生歯列」

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Kさん「上突咬合・両突歯列・叢生歯列」

初診時の診断:「上突咬合・両突歯列・叢生歯列」

今回は、上下の前歯が突出(唇側に傾斜)し乱杭歯(叢生)の成人矯正治療であるKさんの症例を解説します。一般的な小臼歯および親知らずの抜歯に加えて、通常は存在しない9番目の歯も抜歯したことで矯正治療をおこなうにあたり9本の抜歯が必要となった症例です。抜歯本数が多く抜歯も大変だったのですが抜歯により歯並びや噛み合わせが改善しただけではなく、口唇の突出感も改善され口元がとても綺麗になりました。

■初診時

現症および主訴

上下顎前歯の前突(唇側傾斜)および乱杭歯(叢生)を気にされて当院を受診しました。初診時23歳。

※以下より画像をクリックすると大きい画像が見れます。

顔貌所見

初診時 顔貌

初診時 側貌 E-line

正貌における明らかな非対称性は認められませんでしたが、口唇閉鎖時の口唇周囲軟組織の緊張感は顕著でオトガイ部に緊張による皺ができていました。また口唇閉鎖をしようとしても完全な閉鎖はできず上顎前歯の先端がわずかに露出していました。口唇の突出により赤唇部の厚みも増しています。

側貌において、口唇の突出感は顕著でElineを越えて口唇が突出していました。

口腔内所見

大臼歯の前後的な位置関係は、右側Angle class I、左側軽度のAngle class IIで上下歯列の正中のズレもほとんどなく左右噛み合わせの対称性は比較的良好でした。上顎の親知らずは萌出しているものの頬側に転位しており、下顎の親知らずは埋伏していました。上下顎前歯部には、顎骨に対して歯が大きすぎることによる歯の萌出余地不足で叢生を呈していました。

初診時 上顎

初診時 右側初診時 正面初診時 左側

初診時 下顎

特記事項

上顎左側親知らずの遠心(後方)に9番目の歯である第4大臼歯を認めました。

X線写真
▼上顎左側に第4大臼歯を認める

■ 治療方針

診断は、中立咬合・両突歯列(上下顎前突)としました。
上下の前歯が前突していることおよび叢生の原因は、顎骨に大して歯が大きすぎることで歯が並びきらないことです。このため、上下顎左右第1小臼歯(4番)を抜歯することですき間をつくり叢生の改善と前歯の後退をおこなうこととしました。

また第1小臼歯を抜歯したことでできるスペースにより親知らずの萌出が促進される可能性があり、前歯を後退させるために確保したスペースが親知らずの萌出による大臼歯の近心(前方)移動で失われる可能性が高いので、親知らずも抜歯の対象としました。上顎左側の第4大臼歯は、親知らずの抜歯の際に抜歯することで負担が少なくなると判断し同時に抜歯する方針としました。

歯を動かす矯正の治療期間(動的治療期間)は約30ヵ月、動かした後の歯を安定させるための保定期間(リテーナーの装着期間)は約24ヵ月を予定しました。

両突歯列により口唇閉鎖ができないことでお口の中は乾き易くなり歯の磨き残しが多く、むし歯の原因菌も多いことで矯正治療中にむし歯になる可能性が高くなると考え、矯正治療開始前の歯磨き指導、フッ素塗布、歯石除去などのプロフェッショナルクリーニングによる初期治療を徹底することとしました。

■ 動的治療開始時

初期治療後に再評価をおこない、歯の磨き残しが減少し、家庭でのフッ素使用も可能となったので、上下顎左右第1小臼歯(4番)の抜歯をおこなってから上下に矯正装置を装着して治療を開始しました。

動的治療開始時 上顎

動的治療開始時 右側動的治療開始時 正面動的治療開始時 左側

動的治療開始時 下顎

■ 治療結果

動的治療期間

実際にかかった動的治療期間は約31ヵ月、調整回数は28回、平均的な来院間隔は1.1ヵ月でした。理想的な来院間隔は0.9ヵ月(28日)なので来院間隔がやや長くなってしまったことで治療期間が予想期間を越えてしまいましたがほぼ予定通りに治療は進みました。

顔貌所見

動的治療後 顔貌

動的治療後 側貌

上下顎前歯の後退により上下口唇は後退し、口唇は完全に閉鎖することが可能となり、口唇の突出感や口唇閉鎖時の緊張感による口唇周囲のしわが認められなくなりました。また、口唇の後退により正貌における赤唇部の厚みも減少し審美的にもバランスの良い口唇となりました。

口腔内所見

上下歯列の抜歯スペースは閉鎖され、咬合平面は平坦化、上下歯列の正中は一致し、上下の歯がバランスよく噛めるようになりました。

動的治療後 上顎

動的治療後 右側動的治療後 正面動的治療後 左側

動的治療後 下顎

X線写真所見

パノラマX線写真所見では、明らかな歯根吸収や歯槽骨吸収などを認めず歯根も平行に配列されています。 セファロX線写真の重ね合わせにより下顎前歯が後退し上下口唇の突出感が改善し側貌における硬組織と軟組織のバランスが改善したことを確認できました。

X線写真
パノラマX線写真

初診時・動的治療後のセファロ重ね合わせによる比較
初診時・動的治療後の
セファロ重ね合わせによる比較

初診時 動的治療後の比較 (初診時 動的治療終了時)

初診時 顔貌   動的治療後 顔貌

初診時 顔貌   動的治療後 顔貌

初診時 口元   動的治療後 口元

初診時 正面   動的治療後 右側

 初診時 右側   動的治療後 右側

う蝕のトータルリスク比較

う蝕のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスク比較

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

5分間刺激唾液分泌量の変化

5分間刺激唾液分泌量の変化

■ 考察

本症例は顎骨に対して歯が大きいことで上下顎前歯が突出(唇側傾斜)する両突歯列(上下顎前突)の典型的な症例です。矯正歯科治療の目的は、歯のデコボコ(叢生)だけを治す治療と思われがちですが、顔面骨格や唇とのバランスを考えて歯の位置を変化させること(前歯を後退させること)で噛みやすさ、口元の突出感・口の閉じやすさなどの機能も変えることが可能です。本症例では、叢生を改善するだけでなく前歯を後退させることで歯並びはきれいに、よく噛めるようになり、そして口も閉じやすくなりました。この結果、矯正治療開始前に比べて唾液の分泌量も増加し、口腔内の衛生状態は良好に保つ機能も変化し、見た目だけの美しさではなく、機能的な美しさを獲得することができました。見た目だけの美しさでは加齢変化とともに崩れてしまいますが、骨格や軟組織と調和した機能を備えた美しさはメインテナンスさえきちんとおこなえば加齢変化が起きたとしても美しさは容易く崩れずに維持することができます。本症例では、歯を抜く本数が多かったものの抜歯したスペースを有効に利用し前歯を後退させることで口が自然に閉じられるようになり、口元の突出感が改善し、長期に渡り安定する機能的で美しい歯並びと口元が獲得できたと思われます。

一方、歯並びがきれいになってもその後の歯の管理が不十分だとむし歯や歯周病より噛み合わせが変化し美しさを失うことになります。本症例では、むし歯と歯周病のトータルリスクは減少しているものの矯正治療開始前の初期治療で下がった歯の磨き残しによるリスク(PCR、BOP)が再度上昇してしまいました。

現在はリテーナーを使用しながら動的治療後の初期治療を再度おこなうことでリスクを徐々に下げており、リテーナー期間中にこれらのリスクを減少させて更に口腔内環境を良好にして矯正治療の完了につなげていきたいと考えています。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
治療に用る主な装置
マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
費用(自費診療)
約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。