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症例紹介18/Oさん「中立咬合、両突歯列、叢生歯列、下後退顎」

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Oさん「中立咬合、両突歯列、叢生歯列、下後退顎」

初診時の診断:「中立咬合、両突歯列、叢生歯列、下後退顎」

今回は、成人の両突歯列(上下顎前突)に対して抜歯矯正をおこなったOさんの症例について解説します。一般的に両突歯列では歯の凸凹(叢生)は目立ちにくいものの上下顎前歯が唇側に傾斜しているため口唇周囲軟組織の突出感や口唇閉鎖時の緊張感が顕著です。また、Oさんは通訳のお仕事もされており発音に対しても高い質を求められたため矯正治療による改善を希望されました。歯科矯正用アンカースクリューと抜歯により上下顎前歯を十分に後退させて、歯並びや噛み合わせだけでなく、口元のバランス、発音も改善した症例です。初診時32歳。

■初診時

現症および主訴

歯並び、かみ合わせ、発音の改善。特にここ数年強くなってきた前歯の傾斜の改善。

※以下より画像をクリックすると大きい画像が見れます。

顔貌所見

初診時 顔貌

上顎骨に対して下顎骨が後方に位置し、オトガイ部の後退感が強い傾向を認めます。前歯の唇側傾斜、及び口唇周囲軟組織に対して下顔面高が長いことで口唇の突出感及び口唇閉鎖時の緊張感を認めます。

口腔内所見

骨格の影響により上下顎歯列の前後的な位置関係にズレがあり、上顎歯列に対して下顎歯列がやや後方に位置していました。大臼歯関係は左右ともにAngle class IIの咬合関係でした。叢生は軽度に認められ、咬合平面の湾曲(curve of Spee)も認められました。

一般歯科的所見では失活歯は存在しないものの多数の修復歯を認め、歯肉の腫脹や歯肉の退縮を認めました。う蝕経験歯数(DMF)は12本、口腔衛生状態は歯の磨き残しを示すPCRは34.3%、歯周病の進行状況を示す歯肉からの出血(BOP)は13.6%、唾液検査によるう蝕のトータルリスクは14、歯周病のトータルリスクは9とう蝕・歯周病のリスクが高い状態でした。歯面には隣接面を中心にプラークが付着し、大臼歯により広い範囲のプラークが付着し歯と歯肉の境には炎症による発赤を認めます。

特記事項

全身的な疾患や顎関節症などはありませんでした。

初診時 上顎

初診時 右側初診時 正面初診時 左側

初診時 下顎

X線写真

■ 治療方針

両突歯列・叢生歯列を伴う上突咬合と診断し、上下顎左右第1小臼歯の抜歯により顎骨内にスペースを確保し、叢生、curve of Speeの改善および前歯の後退による口唇閉鎖時の突出感および緊張感の改善も治療目標としました。前歯を最大限後退させるために加強固定として歯科矯正用アンカースクリューの使用を診断時に説明し、最終的に使用するかどうか矯正治療開始後に希望を確認することとしました。治療に伴う問題点として、成人の矯正治療であり既に歯肉退縮を認めることから歯肉退縮が進行しブラックトライアングルが大きくなる可能性を説明しました。

唾液検査によりう蝕と歯周病のリスクが高いことがわかり、矯正治療開始前の初期治療として徹底したPMTC、歯石除去、ブラッシング指導によるバイオフィルムの破壊、フッ素の使用をおこないPCR30%以下、BOP0%の状態になってから矯正治療を開始することとしました。矯正治療開始後も毎回のワイヤー調整に合わせてPMTC、スケーリングによる歯石除去をおこない、う蝕と歯周病の原因菌によるバイオフィルムを除去して予防を徹底しておこなうこととしました。

■ 動的治療開始時

初期治療により歯の磨き残しおよび歯肉からの出血が減少したので抜歯をおこない矯正治療を開始しました。

動的治療開始時 上顎

動的治療開始時 右側動的治療開始時 正面動的治療開始時 左側

動的治療開始時 下顎

■ 治療結果

動的治療期間

動的治療期間は約30ヵ月でした。調整回数は32回、平均的な来院間隔は0.9ヵ月で遅刻やキャンセルもなく治療に対して非常に協力していただけました。

顔貌所見

動的治療後 顔貌

小臼歯の抜歯により上下顎前歯が後退したことで上下口唇の突出感および口唇閉鎖時の緊張感が改善し側貌においてElineの内側に上下口唇が入るバランスの良い側貌を得ることができました。

口腔内所見

上下顎左右の臼歯関係はAngle class Iになり左右の臼歯関係は対称になり、curve of Speeも改善され咬合平面は平坦化し全ての歯が効率よく接触できる状態になりました。下顎左側第2小臼歯(左下5番)の歯肉退縮が進み歯根が露出してしまいましたが歯の動揺などは認めませんでした。

上顎左側側切歯(左上2番)は動的治療期間中に打撲により変色していますが電気歯髄診では生活反応を認めるため歯髄に対する処置はおこなっていません。歯科矯正用アンカースクリューは動的治療終了時の検査で問題のないことを確認した後に除去しました。

動的治療後 上顎

動的治療後 右側動的治療後 正面動的治療後 左側

動的治療後 下顎

X線写真所見

パノラマX線写真所見では、明らかな歯根吸収などを認めず歯根も平行に配列されています。左上2番根尖部に透過像、左下5番近遠心歯槽骨吸収等も認めませんでした。

セファロX線写真の重ね合わせにより上下顎前歯が後退し上下口唇の突出感が改善し側貌における硬組織と軟組織のバランスが改善したことを確認できました。

X線写真

セファロ重ね合わせ

初診時 動的治療後の比較

初診時 顔貌   動的治療後 顔貌

初診時 顔貌   動的治療後 顔貌

 初診時 右側   動的治療後 右側

初診時 正面   動的治療後 右側

唾液検査比較

初診時、初期治療後の再評価時、動的治療終了時の比較をおこないました。治療開始前は、う蝕・歯周病ともにリスクが高かったものの初期治療によりリスクは減少し、動的治療期間中も毎回メインテナンスをおこない、フッ素洗口をおこなったことでう蝕のトータルリスクは14→9、歯周病のトータルリスクは5→3に減少しました。

歯肉からの出血を示すBOPは13.7%→0.7%に減少し歯周組織の炎症はコントロールされている状態でした。歯の磨き残しを示すPCRは初診時34.3%→再評価時12.1%→動的治療終了時25%と初期治療時に減少した値が動的治療後に増加してしまいましたが再度初期治療やTBIをおこなうことで減少しています。

う蝕のトータルリスク比較

う蝕のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスク比較

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

■ 考察

本症例は、上下顎前歯の唇側傾斜により口唇の突出感と口唇閉鎖時の緊張感が顕著な症例でした。成長期にある患者さんの場合、前歯を後退させることで顕著に口唇の突出感が改善されますが、本症例のように成長が終了した成人症例では改善度合いが小さくなることがしばしばあります。そこで、歯科矯正用アンカースクリューを利用して前歯を最大限に後退させることで口唇の突出感および緊張感を改善することができました。

また、Oさんはプロの通訳であり発音に対してシビアな職種でした。歯並びが良くなることはOさんの発音に良い効果があると予想していましたが、歯並びが良くなる途中の矯正治療が悪影響を及ぼさないか若干の不安がある状態での治療開始でした。しかしOさんの努力による部分が大ではあるものの、矯正治療がお仕事に悪影響を与えず終了できてホッとしています。

一方、成人症例で予測が難しいのが歯周組織の変化です。初診より歯肉の退縮や歯周炎を認めていたことから前歯部の歯肉退縮によるブラックトライアングルはある程度予想していたものの、左下5番の歯肉退縮は初診時に顕著な症状も認めなかったため予想していませんでした。頬側以外の歯槽骨吸収は認めないため動揺などはなく機能的には問題ありませんが、今後もメインテナンスを継続し歯肉退縮が進行しないように注意深く管理していきます。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
治療に用る主な装置
マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
費用(自費診療)
約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。