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症例紹介17/Nさん「顎変形症(下顎左側偏位)交叉咬合、両突歯列、叢生歯列」

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Nさん「顎変形症(下顎左側偏位)交叉咬合、両突歯列、叢生歯列」

初診時の診断:「顎変形症(下顎左側偏位)交叉咬合、両突歯列、叢生歯列」

今回は、骨格性下顎骨左側偏位により外科矯正治療をおこなったNさんの症例解説をおこないます。Nさんは初診時に外科矯正を希望されていた訳ではありませんが当院分析の結果、顔貌の対称性を得て長期的な安定性も考慮すると外科矯正を適応した方が良いと考え外科矯正をお勧めして治療をおこなった症例です。初診時24歳。

■初診時

現症および主訴

叢生(歯のでこぼこ)によるかみ合わせの不安定感、歯の突出(唇側傾斜)による口唇突出感の改善。

※以下より画像をクリックすると大きい画像が見れます。

顔貌所見

顔貌

側貌

骨格的に上下顎骨の前後的なズレは顕著に認めませんでしたが、下顎骨は左側に偏位し口裂は左上がりになりオトガイも左側に偏位していました。側貌では口唇の突出感が強く特に下唇の突出感を強く認めました。オトガイ部軟組織は口唇閉鎖時の緊張感を強く認めました。

口腔内所見

上下顎歯列の前後的および水平的な位置関係にズレがあり、上顎歯列に対して下顎歯列がやや前方かつ左側に位置していました。上顎歯列正中に対して下顎歯列正中は約6ミリ左側に偏位し左側側切歯部から犬歯・小臼歯にかけて反対咬合を呈していました。大臼歯関係は右側がAngle class III、左側はAngle class Iと非対称な咬合関係でした。

一般歯科的所見は上左右8番は埋伏し、上右7番4番2番が失活歯で多数の修復歯を認めう蝕経験歯数(DMF)は15本でした。口腔衛生状態は不良で、歯の磨き残しを示すPCRは56.4%、歯周病の進行状況を示す歯肉からの出血(BOP)は5.4%、唾液検査によるう蝕のトータルリスクは14、歯周病のトータルリスクは9とう蝕・歯周病のリスクが高い状態でした。歯面にはプラークが付着し歯と歯肉の境には炎症による発赤を認めます。

 治療前 上顎

 治療前 右側 治療前 正面 治療前 左側

 治療前 下顎

▼は失活歯を示す
は失活歯を示す

特記事項

全身的な疾患や顎関節症などはありませんでした。

■ 治療方針

両突歯列・叢生歯列を伴う骨格性下顎骨左側偏位症例と診断し、Nさんには矯正単独の治療方針と外科矯正の治療方針をご説明しました。矯正単独の方針では下顎骨の偏位が改善できないこと、外科矯正では偏位を改善できるものの手術による痛みや入院が必要で手術後に麻痺が残る可能性もあることなど両方針のメリット・デメリットをご説明しました。当院としては長期的な安定性の観点から外科手術の方針をお勧めしました。抜歯部位は上顎右7番4番左4番8番、下顎左右4番、動的治療期間は30ヵ月を予定しました。失活歯は矯正治療後に抜歯となる可能性があることから本来であれば上顎右側の8番は抜歯対象ですが7番を抜歯し8番を牽引する方針としました。

唾液検査によりう蝕と歯周病のリスクが高いことがわかり、矯正治療開始前の初期治療として徹底したPMTC、歯石除去、ブラッシング指導によるバイオフィルムの破壊、フッ素の使用をおこないPCR30%以下、BOP0%の状態になってから矯正治療を開始することとしました。矯正治療開始後も毎回のワイヤー調整に合わせてPMTC、スケーリングによる歯石除去をおこない、う蝕と歯周病の原因菌によるバイオフィルムを除去して予防を徹底しておこなうこととしました。

■ 動的治療開始時口腔内写真

動的治療開始

動的治療開始時 上顎

動的治療開始時 右側動的治療開始時 正面動的治療開始時 左側

動的治療開始時 下顎

■ 術前矯正治療終了時(動的治療開始から36ヵ月後)

上下顎の小臼歯を抜歯したことで、上下顎前歯は後退し叢生は改善されました。上下顎骨それぞれに対して歯がまっすぐ並ぶことで上下顎骨のズレと同様に上下の歯列正中はずれているものの、上下顎における歯の高さは揃い咬合平面は平坦化しました。抜歯スペースの閉鎖、咬合平面の平坦化により外科手術が可能となったので手術をおこないました。外科手術は下顎骨を単独でおこない入院期間は約2週間でした。

術前矯正治療終了時(動的治療開始から36ヵ月後) 右側術前矯正治療終了時(動的治療開始から36ヵ月後) 正面術前矯正治療終了時(動的治療開始から36ヵ月後) 正面

■ 治療結果

動的治療期間

動的治療期間は約41ヵ月でした。調整回数は37回、平均的な来院間隔は1.1ヵ月でした。途中来院間隔が開いてしまったこと、偏位がずれたままの状態を維持しながら慎重に治療を進めたため診断時に設定した治療期間(30ヵ月)から大幅に遅れて治療を終えました。

顔貌所見

顔貌

側貌

小臼歯の抜歯により上下顎前歯が後退したことで上下口唇の突出感および口唇閉鎖時の緊張感が改善し、下顎骨は外科手術により右側に回転および後退したことで口裂の左上がりが改善しオトガイと顔貌の正中がほぼ一致しました。下顎骨の後退により下唇やオトガイ部が後退し、側貌全体ではE lineの内側に上下口唇が入るバランスの良い側貌を得ることができました。

口腔内所見

上下顎左右の臼歯関係はAngle class Iになり左右の臼歯関係は対称になりました。上下歯列の正中はほぼ一致し全体的に緊密な咬合を得ることができました。上右7番を抜歯して牽引してきた8番は上顎歯列に配列され対合する下顎右7番と咬合できるようになりました。

治療後 上顎

治療後 右側治療後 正面治療後 左側

治療後 下顎

X線写真所見

パノラマX線写真所見では、明らかな歯根吸収などを認めませんでした。失活歯は右上2番のみとなりました。左上8番は今後抜歯する予定です。下顎骨を後退させ固定する際に使用したチタンプレートが写っています。

▼は失活歯を示す
は失活歯を示す

セファロX線写真の重ね合わせにより上下顎前歯が後退し上下口唇の突出感が改善、外科手術による下顎骨の後退により側貌における硬組織と軟組織のバランスが改善したことを確認できました。

唾液検査比較

動的治療開始時、初期治療後の再評価時、動的治療終了時の比較をおこないました。治療開始前は、う蝕・歯周病ともにリスクが高かったものの初期治療によりリスクは減少し、動的治療期間中も毎回メインテナンスをおこない、フッ素洗口をおこなったことでう蝕のトータルリスクは14→9、歯周病のトータルリスクは7→1に減少しました。

う蝕のトータルリスク比較

う蝕のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスク比較

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

■ 考察

本症例は、骨格的なズレが大きく外科矯正治療により下顎骨の偏位を改善しました。下顎骨単独の外科手術でしたが軟組織の非対称性を大きく改善することができました。上顎骨も外科手術により移動するかどうか、診断時、外科手術前の再評価時に、外科医、患者Nさんと検討しましたが負担が大きいと考え下顎骨のみの手術としました。非対称性の改善効果は予想より大きく結果は良好でした。右上7番を抜歯し8番の牽引も上手くいきましたが歯冠サイズが小さく歯根も短いので今後も注意深いメインテナンスが必要です。右上2番の失活歯は変色を認めましたので動的治療後に補綴処置をおこないました。

う蝕と歯周病のリスクは矯正治療開始前に比較して減少し、失活歯数も抜歯により減少したことで長期的に保存可能な歯列の状態へと変化しました。今後は、むし歯と歯周病予防のためのメインテナンスを継続することでNさんの寿命より歯の寿命を長くできるように管理していきたいと考えています。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
治療に用る主な装置
マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
費用(自費診療)
約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。