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症例紹介13/Aさん「上突咬合・過蓋咬合・叢生歯列」

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Aさん「上突咬合・過蓋咬合・叢生歯列」

初診時の診断:「上突咬合・過蓋咬合・叢生歯列」

顎関節症を伴う過蓋咬合症例に対する矯正治療についての解説ですが、治療期間中に留学されて動的治療が一時中断され動的治療期間が長くなってしまった症例です。初診時19歳。

■ 現症

顔貌所見

骨格的に上顎骨および頭蓋に対して下顎骨が後方に位置し骨格性の上顎前突傾向を認めます。しかし、アジア人では少ないオトガイの発達が良好なことで下顎の後退感は顕著ではありません。上下顎前歯が唇側に傾斜し軽度の口唇突出感や赤唇部の翻転をみとめました。

※以下より画像をクリックすると大きい画像が見れます。

顔貌

顔貌
正面観において
赤唇部が厚く見える口唇の翻転

口腔内所見

上顎歯列は下顎歯列に対して前方に位置するアングル2級で 、上顎前歯は下顎前歯の2/3近くを覆う過蓋咬合(かがいこうごう)を呈しています。また、上下顎前歯部には歯と歯が重なり合う叢生を認めます。修復歯は多数あるものの、口腔衛生状態は良好で歯の磨き残しは少なく、歯肉からの出血もありませんでした。唾液検査の結果は良好でPCR15%、BOP0%、SMスコア0、LBスコア0とう蝕・歯周病ともにリスクは低いものでした。

 治療前 上顎

 治療前 右側 治療前 正面 治療前 左側

 治療前 下顎

特記事項

問診により、全身的な問題として慢性的な頭痛、顎関節症の既往を認め、主訴(矯正治療を希望する主な訴え)は歯並びの改善だけではなく顎関節症の改善も含まれていました。パノラマX線写真では下顎頭(顎関節)の形態異常を認めました。上顎右側には第3大臼歯(親知らず)が埋伏していました。

下顎左側第2小臼歯(左下5番)が舌側(内側)に転位
下顎頭 矢頭()埋伏している親知らず

■ 治療方針

歯並びと噛み合わせの異常の原因は、上下顎骨の前後的なズレと顎骨内に歯が並びきらないことと考えました。しかし、叢生の程度は比較的軽度でオトガイも発達していること、主訴に口唇の突出感はなかったことから積極的に上下顎前歯を後退させない方針としてインプラントアンカーを利用して大臼歯を遠心移動して非抜歯による矯正治療をおこなうか、小臼歯抜歯により叢生の改善および大臼歯を近心に移動して治療する方針かで苦慮しました。

非抜歯の場合、大臼歯を遠心移動することで顎関節に近接した部位の咬合高径(かみ合わせの高さ)が大きくなり顎関節の負担が上昇する可能性があることなどから診断時にAさんと相談して抜歯による矯正治療をおこなうこととしました。また、動的治療開始前の初期治療により口腔内のPMTC、歯石除去、口腔衛生指導をおこないながら、頭痛及び顎関節症に対しては医科および口腔外科と連携しながら治療をおこなうこととしました。

抜歯部位は矯正治療開始前に上顎は第1小臼歯(左右4番)、下顎は第2小臼歯(左右5番)とし、右上8番は動的治療期間中に抜歯することとしました。動的治療期間は約30ヵ月と予測しました。

■ 動的治療開始時口腔内写真および治療経過

動的治療開始

開始後 上顎

開始後 左側開始後 正面開始後 左側

開始後 下顎

■ 動的治療開始から13ヵ月後(留学開始時)

6ヵ月間の海外留学のため、一時的に矯正装置を除去することとしました。抜歯スペースは残っているものの、動かした歯が元に戻らないように上顎には可撤式リテーナー、下顎には固定式リテーナーを装着しました。

 開始後 上顎

 開始後 左側 開始後 正面 開始後 左側

 開始後 下顎

■ 留学終了時(帰国後)

帰国され動的治療再開時は遠心移動した上顎犬歯が近心に若干戻り、前歯の被蓋は留学前に比べて深く(下顎前歯との重なりは大きく)なっていました。

 開始後 上顎

 開始後 左側 開始後 正面 開始後 左側

 開始後 下顎

■ 治療結果

動的治療期間

動的治療期間は留学期間も含めて約45ヵ月で予定の期間よりも1年以上長い期間(15ヵ月)がかかってしまいました。留学による動的治療一時中断期間は約7ヵ月でした。

顔貌所見

上下顎前歯が後退したことで口唇の突出感が減少し、口唇の翻転も改善しました。

顔貌

顔貌

口腔内所見

叢生、上下顎前歯の唇側傾斜、過蓋咬合は改善され、上下顎の全ての歯が効率よく接触する安定した咬合を得ることができました。臼歯関係はアングル2級から1級の理想的な咬合関係に改善しました。

治療後 上顎

治療後 正面治療後 右側治療後 左側

治療後 下顎

X線写真所見

パノラマX線写真所見では、歯軸は平行化され明らかな歯根吸収なども認めませんでした。下顎頭の形態異常も初診時と大きな変化はなく、安定した状態にあると思われます。

X線写真

セファロX線写真の重ね合わせにより上下顎前歯が後退し、口唇の突出感が改善し側貌における硬組織と軟組織のバランスが改善しました。

■ 考察

本症例は過蓋咬合により顎関節部に負担がかかると考えられたこと、下顎骨や関節突起が細く変形し負担に対して弱かったこと、顎関節症になりやすい10代の女性であったことなどの複合的な要因で顎関節症になっていたものと思われます。矯正治療開始前に顎関節症は矯正治療により改善するとは断言できないものの改善する可能性はあることなど十分説明し、さらに他科の医師とも連携したことにより患者さんが安心して治療を受けることができたことで特に大きなトラブルや治療中の顎関節症の発症などもなく矯正治療を終えることができました。

また、理想的には矯正治療を中断せずにおこなった方が治療期間は短くなりますが、貴重な学生時代を有意義にするためにも矯正治療を一時中断して留学を優先してもらいました。本症例のように矯正治療は期間が長い治療になりますので、患者さん個人の状況に合わせて様々な対応を検討しなければなりません。治療期間は長くなってしまいましたが結果的には良い歯並びと貴重な留学経験という大きな二つの成果を得ることができたことは素晴らしいことだと思っています。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
治療に用る主な装置
マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
費用(自費診療)
約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。