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症例紹介11/Kさん「開咬をともなう骨格性下顎前突症」

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Kさん「開咬をともなう骨格性下顎前突症」

初診時の診断:「開咬をともなう骨格性下顎前突症」

外科矯正治療(手術を伴う矯正治療)を受けていただいた患者さんです。初診時22歳。

■ 現症

顔貌所見

※以下より画像をクリックすると大きい画像が見れます。

顔貌

骨格的に上顎骨および頭蓋に対して下顎骨が前下方に位置し下顔面高は大きく、下顎全体の突出感、下唇やオトガイ部(下顎骨先端)の突出感が顕著です。また、下顔面高に対して軟組織が不足しているので口唇閉鎖時の緊張感(オトガイ周囲の皺)を認めます。

口腔内所見

上顎歯列に対して下顎歯列は前方に位置し、大臼歯部しか咬合していない開咬を呈しています。大臼歯の歯列幅径は上顎に対して下顎の方が広く、叢生(乱杭歯)はあまり顕著ではありませんでしたが前歯部に軽度の叢生を認めました。親知らず(第3大臼歯)は上下顎左右に存在し、上顎左側のみ萌出せず埋伏していました。口腔衛生状態は不良で、歯の磨き残しは多く、う蝕の原因菌も多く認めました。唾液の分泌量も少なく、むし歯と歯周病や噛み合わせの異常により将来的に歯を失うリスクが高いと予想されました。

開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療前 上顎

開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療前 右側開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療前 正面開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療前 左側

開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療前 下顎

X線写真

■ 治療方針

開咬や反対咬合の原因は、主に下顎骨の過成長によるものと診断しました。骨格のズレの程度が小さい場合には通常の矯正治療で改善することも可能ですが、本症例では骨格のズレが大きく骨格と軟組織の不調和も大きいことから外科矯正治療による下顎骨の後退と第3大臼歯の抜歯による軽度叢生の改善を提案しました。しかし、外科矯正治療では全身麻酔による手術および入院(10~14日間)が必要なこと、手術後に知覚の麻痺が残る可能性があることなどから治療をするかどうか十分に検討していただいてから治療を開始することとしました。動的治療期間は18ヶ月~24ヶ月を予定しました。手術は動的治療開始後、12ヶ月前後におこなう予定としました。

■ 動的治療開始後の口腔内写真

開咬をともなう骨格性下顎前突症 開始後 上顎

開咬をともなう骨格性下顎前突症 開始後 左側開咬をともなう骨格性下顎前突症 開始後 正面開咬をともなう骨格性下顎前突症 開始後 左側

開咬をともなう骨格性下顎前突症 開始後 下顎

■ 手術直前の口腔内写真

術前の矯正治療を約12ヶ月おこない叢生は改善され咬合平面が平坦化された状態です。

開咬をともなう骨格性下顎前突症 手術直前 右側開咬をともなう骨格性下顎前突症 手術直前 正面開咬をともなう骨格性下顎前突症 手術直前 左側

■ 手術し退院後の口腔内写真

外科手術による下顎骨の移動をおこない、約2週間の入院を経て当院を受診。顎間固定のためのフックがついたままの状態でまだ十分な咀嚼や開口はできないものの下顎骨の後退により上下歯列の前後的な位置関係は大きく改善している状態です。

開咬をともなう骨格性下顎前突症 退院後 右側開咬をともなう骨格性下顎前突症 退院後 正面開咬をともなう骨格性下顎前突症 退院後 左側

■ 治療結果

動的治療期間

動的治療期間は17ヶ月(手術は動的治療開始から約12ヶ月後)で予定の期間よりも僅かに短い期間で終了することができました。これは、Kさんが通院中1回のキャンセルもなく、毎回の治療にほとんど遅刻することなく来院されたことで、常に最大限の治療をおこなえ治療が遅滞なく進んだことによるものと考えられます。

顔貌所見

顔貌

外科手術により下顎骨を後方に後退、開咬を改善するために上方に回転させたため、下顎骨の突出感の改善、下顔面高の減少による口唇閉鎖時の緊張感が改善。

口腔内所見

親知らず(第3大臼歯)抜歯により得られた僅かなスペースを利用し、叢生は改善されました。上下歯列の前後的な位置関係も改善され咬合は概ね安定していますが、下顎大臼歯部の幅が依然として広く上顎大臼歯を頬側に傾斜、下顎大臼歯を舌側に傾斜させましたが上下臼歯部の幅に僅かなズレが残りました。

開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療後 上顎

開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療後 右側開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療後 正面開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療後 左側

開咬をともなう骨格性下顎前突症 治療後 下顎

X線写真所見

パノラマX線写真所見では、親知らず(上下8番)を抜歯したことで各歯の歯軸がほぼ平行に並び良好なバランスの歯軸配列になりました。

X線写真

動的治療前後の比較(治療開始前VS治療後)

側貌

治療前 側貌

治療後 側貌

スマイル
治療前 口元

 
 治療後 口元

セファロ重ね合わせ

外科手術により下顎骨は後退し、上方(反時計方向への回転により)下顔面高は減少しました。

セファロ重ね合わせ

むし歯と歯周病のリスク変化

動的治療開始前に比較し、むし歯の原因菌(SM菌、LB菌)の減少、唾液分泌量が3.8ml/5分から6ml/5分へ増加、歯の磨き残しを表すPCRは45.8%から5.0%に減少、歯肉の炎症状態を表すBOPは7%から1.2%に減少しました。その結果、むし歯総合リスクは14から3へ減少、歯周病リスクは5から1へ減少し矯正治療開始前に比べて口腔衛生状態も改善されました。

むし歯のトータルリスク比較(点線:動的治療開始時、実線:動的治療終了時)

むし歯のトータルリスク比較(点線:動的治療開始時、実線:動的治療終了時)

歯周病のトータルリスク比較(点線:動的治療開始時、実線:動的治療終了時)

歯周病のトータルリスク比較(点線:動的治療開始時、実線:動的治療終了時

下顎歯列の歯の磨き残し(PCR)比較 治療開始時VS 治療終了時

保定期間中のメインテナンスにより口腔衛生状態はより良好になりむし歯・歯周病のリスクはさらに減少しました。

下顎歯列の歯の磨き残し(PCR)比較 治療開始時

下顎歯列の歯の磨き残し(PCR)比較 治療終了時

むし歯の原因菌(SM菌)比較 治療開始時VS 治療終了時

むし歯の原因菌(SM菌)比較 治療開始時

むし歯の原因菌(SM菌)比較 治療終了時

むし歯の原因菌(LB菌)比較 治療開始時VS 治療終了時

むし歯の原因菌(LB菌)比較 治療開始時

むし歯の原因菌(LB菌)比較 治療終了時

■ 考察

本症例は、下顎骨の過成長により骨格的な不調和が大きく咀嚼機能(ものを噛む機能)も大きく低下していましたが、叢生が少なく歯性の問題は小さかったため外科手術をおこなうことで短い時間で改善することができました。また、これまできちんとした咀嚼ができなかったことで歯に細菌が付着しやすく口腔衛生状態は低下したと思われますが矯正治療による咬合の改善が口腔衛生状態の改善にまで良い影響を与えた症例と思われます。懸念していた外科矯正による知覚の麻痺もほとんど認められませんでした。

また、 Kさんは外科矯正治療の負担の大きさから治療を開始するかどうかについて非常に悩まれていました。本症例は、外科矯正のリスクはあるもののそのリスクは比較的小さく、一方で矯正治療による改善で得られる様々なメリットの方が大きいと考えたこと、当時の年齢は矯正治療をおこなう上で適した年齢であり時間の経過とともに歯周病やう蝕が進行し矯正治療が困難となる症例と判断したため、診断後も数回の説明やメールでの相談を受けて不安を解消してもらいながら矯正治療開始を積極的に勧めました。現在、Kさんは治療結果に満足されているご様子ですので矯正治療を勧めて良かったと思っています。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
治療に用る主な装置
マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
費用(自費診療)
約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。