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症例紹介33/Sさん「上突咬合 上突歯列 叢生歯列弓 下後退顎」

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カリエスフリーで抜歯治療を行った両突歯列症例
初診時の診断:「上突咬合 上突歯列 叢生歯列弓 下後退顎」

今回は、上下顎前歯が唇側に傾斜している両突歯列の改善を行ったSさんの症例について解説します。う蝕の原因菌であるミュータンス菌を認めるものの矯正治療中にむし歯を進行させずに矯正治療を終える事ができカリエスフリーできれいな歯並びを手に入れる事ができた症例です。

※以下より画像をクリックすると大きい画像を見ることができます。

■初診時

現症および主訴

噛み合わせが不安定である事、前歯のデコボコを気にされて当院を受診されました。初診時21歳。

顔貌所見

正貌において下顎がわずかに右側に偏位していました。側貌において口唇閉鎖時の軽度緊張感、口唇の突出感を認めました。

初診時 顔貌初診時 側貌

口腔内所見

上下顎前歯が唇側に傾斜し、前歯部に軽度の叢生を認め、前歯の被蓋関係はやや深い(前歯の重なる量が多い)傾向を認めました。臼歯関係は右側がAngle class I、左側がAngle class IIIでした。臼歯関係が非対称の原因は、左側の大臼歯が近心に移動して左下5番が舌側に転位している事、下顎が軽度に右側偏位している事が原因と思われました。

初診時 上顎

初診時 右側初診時 正面初診時 左側

初診時 下顎

X線写真所見

側面頭部X線規格写真(セファロ)により、上顎骨と下顎骨の前後的な位置関係は下顎骨がやや後方に位置し、上下顎骨の歯の並ぶ前後的な奥行きはあまりなく、上下顎前歯が唇側に傾斜する事で口唇突出感の原因となっていました。

X線写真から口唇軟組織に厚い傾向を認めました。パノラマX線写真では、上下顎左右親知らずの埋伏を認めました。デンタルX線写真では歯周病による明らかな歯槽骨の吸収等は認められませんでした。

パノラマX線写真

唾液検査・歯周組織検査

唾液検査では、歯の磨き残しが多く、むし歯の原因菌であるミュータンス菌も認め、むし歯のリスクはやや高い傾向を認めました。歯周病は部分的な出血以外大きなリスクを認めない状況でした。

特記事項

特記事項はありませんでした。

■動的治療方針

本症例は咬合に明らかな異常は認めませんでしたが、前歯が突出している事でやや顎の位置が不安定な状態にあった事、前歯が唇側に傾斜した両突歯列であった事から上下左右4番(第1小臼歯)を抜歯して治療を行う事が理想的と判断しました。前歯を最大限に後退させ口元の突出感を改善するためにアンカースクリューを使用する事としました。また、親知らず(8番)も萌出するスペースがなく、矯正治療終了後に7番のう蝕や歯周病の原因になったり、保定期間中にきれいになった歯並びを壊す原因となるので、矯正治療中に抜歯の適応と考えました。動的治療期間は約30ヵ月を予定し、初期治療によりむし歯と歯周病のリスクを下げてから矯正治療を開始しました。

■ 動的治療開始時

動的治療開始時 上顎

動的治療開始時 右側動的治療開始時型 正面動的治療開始時 左側

動的治療開始時 下顎

■ アンカースクリュー使用時

アンカースクリュー使用時 上顎

アンカースクリュー使用時 右側アンカースクリュー使用時 正面アンカースクリュー使用時 左側

アンカースクリュー使用時 下顎

■ 動的治療終了時

動的治療期間および保定期間

動的治療期間は予想の30ヵ月より短い27ヵ月で終える事ができました。この間の調整回数は28回、平均的な来院間隔は1ヵ月でした。無断キャンセルなどによる中断はほとんどありませんでした。保定期間は24ヵ月を予定し現在は保定中です。

顔貌所見

動的治療後の評価では、上下顎前歯の後退により側貌における口唇突出感や口唇閉鎖時の緊張感は改善し、口元の良好なバランスを得ることができました。

動的治療終了時 顔貌動的治療終了時 側貌

口腔内所見

臼歯関係は左右ともにAngle class Iとなりましたが下顎骨が右側に偏位している影響もあって下顎歯列の正中は僅かに右側に偏位が残りました。

動的治療終了時 上顎

動的治療終了時 右側動的治療終了時 正面動的治療終了時 左側

動的治療終了時 下顎

X線写真所見

動的治療後の評価では、パノラマX線写真所見において、全顎的な歯根吸収や歯槽骨吸収などを認めませんでした。セファロX線写真の重ね合わせにおいて上下顎前歯の後退により口唇が後退して突出感と緊張感が改善した事がわかりました。。

パノラマX線写真

動的治療開始から保定終了までのセファロの重ねあわせ

動的治療開始から保定終了までのセファロの重ねあわせ

■ う蝕(むし歯)と歯周病のトータルリスク比較

う蝕のトータルリスク比較

う蝕のリスク合計は初診(動的治療開始時)唾液検査「8」→保定開始時「6」と低い状態で安定しました。これは、フッ素の使用状況の改善、唾液緩衝能の改善によりリスクが減少したためと考えられました。しかし、歯の磨き残しは再評価で減少したものの初診時と同様の値に戻ってしまったので現在再度ブラッシング指導などを徹底して改善をしています。

う蝕のトータルリスク比較

歯周病のリスク比較

歯周病のリスク合計は初診(動的治療開始時)「6」→保定開始時「3」と減少し安定しました。歯周病のリスクは矯正治療後に歯肉からの出血が減少し、定期的な来院も習慣化したためと思われます。

歯周病のトータルリスク比較

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

  • PCR(むし歯と歯周病の原因菌の付着を示す歯の磨き残し)
  • BOP(歯周病の原因菌による炎症を示す歯肉からの出血)
  • 4mm以上の歯周ポケット
    (歯周ポケットが4mm以上になると歯周病の原因菌による歯槽骨の破壊)

5分間刺激唾液分泌量の比較

5分間刺激唾液分泌量の比較
5分間の刺激唾液量

■ 考察

Sさんは噛み合わせの不安定感を気にされていました。このような症例では前歯による適正な被蓋関係を確立し、下顎骨の誘導を安定させる事で解消される場合があります。また上下顎前歯が唇側に傾斜しており、口唇の突出感も認める事から、抜歯を伴う矯正治療により前歯の後退を行いました。本症例では口唇の後退を期待する方針ですが、口唇の厚みも比較的厚い事から前歯を後退しても十分な口唇の後退が得られないと考えた事、治療期間を短くしたいという希望があった事からアンカースクリューを使用し前歯を後退させました。その結果、前歯が十分に後退し口唇の突出感が最大限に改善しました。前歯の被蓋関係が改善し誘導も確立され顎位も安定しました。

Sさんは歯の磨き残しが多く、ミュータンス菌も存在していて矯正治療中にむし歯ができてしまうリスクがありました。しかし、矯正治療中に新しいむし歯の発生は認めず、むし歯が0本(カリエスフリー)のまま矯正治療を終えてきれいな歯並びを得る事ができました。これは、磨き残しが多いものの唾液の分泌量が5分間で11mlと多く、むし歯菌の出す酸による歯の脱灰を防ぐ能力が高い事、当院での指導を受けて家庭でのフッ素を使用する様になった事、動的治療期間中に毎回の衛生士による歯のクリーニング(PMTC)と定期的なメインテナンスを行い、その後の歯面が清潔な状態でのフッ素洗口による積極的な再石灰化によるものと思われました。Sさんには、保定開始後に磨き残しが多い点が今後のリスクとなる事を説明し、再度歯磨きを丁寧に行ってもらいながらリテーナーチェックと定期的なメインテナンスを行い、生涯にわたり歯を守る口腔内を創ります。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
治療に用る主な装置
マルチブラケット装置、症状により歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合もあります。
費用(自費診療)
約1,280,400円~1,472,900円(税込)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
矯正装置を初めて装着後は、歯を動かす力によって痛みや違和感が出たり、噛み合わせが不安定になることで顎の痛みを感じる場合があります。
歯を動かす際に歯の根が吸収して短くなる、歯ぐきが下がる場合があります。
治療中は歯みがきが難しい部分があるため、お口の中の清掃性が悪くなってむし歯・歯周病のリスクが高くなる場合があります。
歯を動かし終わった後に保定装置(リテーナー)の使用が不十分であった場合、矯正歯科治療前と同じ状態に戻ってしまうことがあります。 ・
長期に安定した歯並び・噛み合わせを創り出すために、やむを得ず健康な歯を抜く場合があります。