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患者の協力度は長期メインテナンス中の歯の生存率に影響を与えるか

OPひるま歯科 矯正歯科 院長 晝間 康明

今回は、当院の予防歯科における基礎を指導していただいた日吉歯科熊谷先生と、元クレイトン大学歯周病学講座教授の宮本先生による日本での長期メインテナンスが歯の喪失を防ぐためにどのように貢献しているかを調査し、2010年に発表された研究をご紹介します。

Compliance as a Prognostic Indicator II. Impact of Patient’s Compliance to the Individual Tooth Survival
予後指標としての患者協力度II,
患者の協力度が個々の歯の生存率に与える影響

Takanari Miyamoto, Takashi Kumagai,et al. Journal of Periodontology 2010 Volume 81(9)

研究方法

観察研究(※1)・
後ろ向きコホート研究(※2)

※1: 対照群(メインテナンスを行わなかった群)を設定せずに観察だけ行う研究。科学的根拠のレベルは低下するが、対照群を設定した場合に被検者に不利益が生じるため対照群を設定できない場合に行う研究方法のひとつ。

※2: 被検者をある時点より過去に向かって追跡するためバイアス(データの偏り)が生じやすく科学的根拠のレベルが低くなる。しかし、一般的な診療室のデータを分析する際には前向きのコホート研究を行う負担が大きく困難であるため多く用いられる研究方法。

研究対象と期間

1980年から1988年に同一の歯科医師(山形県日吉歯科熊谷先生)より治療を受け、20年の追跡調査を行い、最低でも15年間のメインテナンスを受けた患者295名。

検査方法

2006年の研究(※3)に基づき、下記のグループに分けた。

※3:Compliance as a Prognostic Indicator: Retrospective Study of 505 Patients Treated and Maintained for 15 Years
Journal of Periodontology 2006 Volume77(2)

患者の協力度をコンプライアンスとし、下記の2分類に従いグループ分けを行い、各分類の要件を満たしている患者を完全コンプライヤー、満たさない患者を不規則コンプライヤーとした。

コンプライアンス分類1:予定したメインテナンスの未受診が30%未満の場合に完全コンプライヤー
コンプライアンス分類2:メインテナンスを開始して2年の間隔を開けずに継続している場合に完全コンプライヤー

検査時期と内容

・アクセルソンの研究と同様に、歯の磨き残し、BOP(プロービング時の出血から歯肉炎の有無)、PPD(歯周ポケットの深さ)、Bone loss(歯を支える骨の高さ)、根分岐部病変、歯冠歯根比、歯の喪失歯数を調査した。
・歯の喪失と歯槽骨吸収は、大臼歯と大臼歯以外の歯で比較した。
・データはメインテナンス開始時と最新のメインテナンス時で比較した。

結果

295人の患者のうち、コンプライアンス分類1、2ともに98人が完全なコンプライヤーであり、197人が不規則コンプライヤーであった。 メインテナンス開始時の総歯牙本数は7,502本で、メインテナンス中に失われた歯は648本、1人平均2.2本だった(表1)。

歯の喪失リスク(生存率)を求めたハザードレシオ(リスクを客観的に比較する方法)では、臼歯部の喪失においてコンプライアンス分類1、2ともに完全コンプライヤーはリスクを0.3(30%)減少した。

歯槽骨の吸収リスクを求めたハザードレシオでは、コンプライアンス分類1において大臼歯と大臼歯以外のリスクを0.3〜0.5(30%〜50%)減少させた。

このデータから当院の捉え方

日本は予防歯科において未だ後進国と言える状況です。近年では、12歳児のむし歯経験歯数は減少しスウェーデンと同等になり、80歳の残存歯数も増加していますが、これらの原因は保育園・幼稚園から始まるフッ化物の利用、歯磨き剤へのフッ化物添加の普及、インプラントに対する評判が低下して歯科医師が予後不良が予測される歯でも抜歯しなくなったためであると考えられ、歯科医療全体が予防歯科にシフトしたためではありません。 本来の予防歯科の普及とは、メインテナンスのために歯科医院へ継続的に通い、むし歯と歯周病のリスクをコントロールするホームケアを指導し、プロフェッショナルケアでサポートすることです。しかし、2021年の現在でもメインテナンスのために歯科医院へ継続的に通院する患者さんは少なく、治療のついでにメインテナンスと考える患者さんが多いため予防歯科においては後進国と言えるのです。このような傾向は地方都市で強く、1980年代の山形県で診療していた熊谷先生の日吉歯科診療所では壊滅的な歯の状態であった患者さんも多かったであろうと推測できます。そのような状況で、アクセルソン先生ら歯科先進国スウェーデンが提唱したメインテナンスを提供し、その結果を長期的に分析した結果、20年のメインテナンスで一人当たり2.2本しか喪失しなかったという結果は驚異的なものです。この結果は、現在でも更新され続け、日々データを提示していただくことで私たちは予防歯科を日本に定着させなければならないと決心することができました。