HOME >  医院案内 >  当院の診療理念・治療方針 >  メインテナンスを行わない場合に起きること

メインテナンスを行わない場合に起きること

OPひるま歯科 矯正歯科 院長 晝間 康明

私たちが予防歯科を行う上で最も重要と考えていることは、病因を分析しコントロールすることとです。従来の歯科治療のように悪くなったところがあれば削って詰め、抜歯して入れ歯やインプラントを埋入する治療の繰り返しは病因の除去を行わないため病気が徐々に進行し歯の喪失を増やす事になるからです。

そこで私たちは、診療プロセスとしてメディカルトリートメントモデル(MTM)に沿って病因を除去する診療を行ない、病気がコントロールされた状態でのメインテナンスの継続こそが歯を守る最も重要なプロセスと捉えています。

メインテナンスを行わない場合には何が起きるのか

メインテナンスを行わない場合とは、従来型の歯が悪くなっていないかの検診を繰り返し、悪くなっていれば治療を行う歯科診療の流れです。これは日本の歯科医療の結果であり、80歳で残っている歯の本数は28本中15本です(H28歯科疾患実態調査)。近年では残存する歯は徐々に増加しているものの年齢とともにほとんどの歯は治療され、歯周病の歯が増えている状況です。また、検査数は減少し、横断的なデータとなるため、どのような経過で歯が失われているかや健康状態の詳細は不明です。本来であれば科学的に信頼度の高い縦断的な研究で分析することが必要ですが、日本では存在しないため、私達はスウェーデンのアクセルソン先生による研究結果を参考にして診療しています。今回は1981年に発表された研究をご紹介します。

Effect of controlled oral hygiene procedures on caries and periodontal disease in adults
Results after 6 years
成人におけるう蝕と歯周病に対する管理された
口腔衛生処置(メインテナンス)の効果
〜6年間の結果〜

P. AXELSSON AND J. LINDHE(Journal of Clinical Periodontology 1981: 8: 239-248)

研究方法

非ランダム化比較試験(実験群と対照群を盲検法によりグループ分けするのではなく目的を伝えてグループ分けした研究)

研究対象

スウェーデン カールスタッド州に住む20才以上の住民
メインテナンス群375名 VS 通常の歯科診療群180名

期間

1971〜72年から6年間

検査方法

  • 研究開始時・3年後・6年後に歯の磨き残し・BOP(プロービング時の出血から歯肉炎の有無)・PPD(歯周ポケットの深さ)・CAL(歯を支える骨の高さ)・むし歯の状態・X線写真検査
  • 研究開始時の検査により必要に応じて不適の修復物などは再修復治療を行った。
  • 年齢に従い以下のようにグループ分けした。
    グループ1 20才以上35歳未満
    グループ2 35才以上50歳未満
    グループ3 50才以上
  • 実験群(メインテナンス群)
    最初の2年間は2ヵ月に1回のメインテナンス
    3年目以降は3ヵ月に1回のメインテナンス
  • 対照群(通常の歯科治療群)
    研究開始より1年後に歯科医院を受診し問題がないことを確認。
    その後は歯に問題が生じた時に来院した。
    3年後、6年後に検査のため来院。

結果

データの信頼性の確認

研究結果を診療に落とし込む際、研究結果の信頼性が低い場合、患者さんの健康を害する恐れがあるため、信頼性の高い研究であるかを確認する必要があります。

アクセルソン先生の研究は、次の理由により信頼性の高い研究と考えています。

1)6年間の長期的かつ研究対象が555人の大規模なデータである。
2)対照群(通常の歯科治療群)と実験群(メインテナンス群)に分けて行われている。(※1)
3)前向き(※2)の縦断的(※3)な研究である。

※1 実験群だけの研究の場合、メインテナンスの効果により病気を予防できているのかわからないため、比較できる群が必要であり設定されている。
※2 前向きとは、研究開始時に結果が出ていない研究で、結果を操作できず信頼性が高い。反対に後向きとは、すでに歯科治療やメインテナンスを受けた人たちのデータを遡って分析した研究で、研究対象者に偏りが生じるなど(そもそもメインテナンスを継続する人は健康観が高いなど)結果の信頼性が低下する。
※3 縦断的とは、患者さん一人一人の3年後、6年後を分析した研究。横断的とは、歯科治療やメインテナンスを開始後3年、6年が経過した患者さんを対象とする研究で、各グループで研究開始時の状況が異なるデータを分析しているため結果に偏りが現れる可能性がある。

当院での捉え方

研究結果より、歯が悪くなる原因である歯に付着する細菌の量を示す歯の磨き残しが、通常の歯科治療群ではメインテナンス群に比べて約5倍高くなっています。これは、メインテナンス群では2〜3ヵ月に1度のメインテナンスで、磨き方の確認や指導を繰り返すことで、6年間で歯を磨く確かな技術を身につけ、習慣化できたことが大きな要因であると考えます。その結果、メインテナンス群では、歯周病の進行は大きく減少し、むし歯の発生は、ほとんどありませんでした。

当院ではこれらの結果を踏まえ、従来の歯科治療を繰り返す診療プロセスではむし歯と歯周病を予防することは不可能であり、MTMに沿ったメインテナンス中心の予防歯科医療を提供することが必要だと考えています。