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症例紹介28/Nさん「埋伏歯を伴う中立咬合 叢生歯列」

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Nさん「埋伏歯を伴う中立咬合 叢生歯列」

初診時の診断:「埋伏歯を伴う中立咬合 叢生歯列」

今回は、上顎左側の永久歯(側切歯、犬歯)が正常に生えてくることができずに、骨の中にある永久歯を開窓牽引してから通常の矯正治療をおこなったNさんの症例について解説をおこないます。

■初診時

現症および主訴

小学校の高学年になっても上顎左側の乳側歯犬歯(上顎左側B、C)が抜けず、乳歯を抜いたら永久歯が生えてくるだろうということで乳歯を抜歯したものの数年経っても永久歯は生えてこず、その後14歳で東京に転居してから心配されて当院を受診されました。初診時14歳。

※以下より画像をクリックすると大きい画像が見れます。

顔貌所見

口唇閉鎖時の口腔周囲の緊張感や側貌における突出感は認めませんでした。スマイル時に上顎左側2、3番が欠損している部分が黒く見えます。

2008年14歳8ヵ月 動的治療開始時 側貌
2008年14歳8ヵ月 動的治療開始時 側貌

口腔内所見

上顎左側にスペースがありますが、上顎左側2、3番の萌出するために十分なスペースはありませんでした。乳歯を抜歯したことで歯槽骨がやや吸収して周りに比べて低くなっています。下顎前歯部には叢生を認めました。上下歯列の前後的な位置関係に顕著なズレはありませんでした。

初診時 上顎

初診時 右側初診時 正面▼は上顎左側2、3番が埋伏している場所です

初診時 下顎

X線写真所見

頭部X線規格写真(セファロ)により、上顎骨に対して下顎骨はやや前方に位置する傾向を認めるものの正常の範囲内でした。上下顎骨の歯の並ぶ前後的な奥行きがなく、骨格的に叢生になりやすい傾向を認めました。パノラマX線写真では、上顎左側2、3番の歯根に明らかな異常は認めず埋伏している状態でした。上下顎左右に第3大臼歯(親知らず)の埋伏を認めました。

パノラマX線写真:▲親知らずの埋伏 ▼上顎左側2、3番の埋伏
▲ 親知らずの埋伏 ▼ 上顎左側2、3番の埋伏

唾液検査・歯周組織検査

唾液検査では、むし歯の原因菌であるミュータンス菌が少ないものの、歯の磨き残しが多く、ラクトバチラス菌が多く、唾液の量もやや少なく、フッ素使用の習慣がないことなどから総合的にむし歯のリスクは高い傾向にあることがわかりました。また、歯肉からの出血が臼歯部から認められることから成長とともにリスクが上昇する歯周病に対しても注意を払う必要があると考えられました。

特記事項

特記事項はありませんでした。

■治療方針

診断は、上顎左側2、3番の埋伏を伴う大臼歯関係Angle class I・叢生歯列としました。

分析により上顎左側2、3番周囲の骨に穴をあけ(開窓)、装置を装着して牽引したとしても萌出後には叢生になるため、牽引後に叢生を改善するためには、第1小臼歯4本抜歯による治療が必要となることを説明しました。しかし、牽引が上手くいかない場合や牽引中に歯根吸収が起きる可能性などがあり完全に予測できないことから開窓牽引後に再度評価して小臼歯の抜歯をおこなうこととしました。

動的治療期間は開窓牽引に約12ヵ月、牽引してから小臼歯抜歯後の矯正に約30ヵ月の合計42ヵ月を予定しました。

矯正治療開始前に、矯正装置を装着することで歯が磨きにくくなり、むし歯と歯周病のリスクが高まるため、むし歯と歯周病の予防やメインテナンスが必要であることを説明し、徹底したPMTC(歯科衛生士による歯面クリーニング)、スケーリングによる歯石除去、フッ素の使用法やブラッシング方法の指導などを中心とした家庭での口腔衛生管理方法の改善のための初期治療をおこない、むし歯と歯周病のリスクが減少したことを確認してから矯正治療を開始することとしました。

矯正治療中も初期治療により下がったリスクが再度上昇するので毎回のワイヤー調整時に上下のワイヤーを外して全顎的に歯肉縁上縁下のバイオフィルムを除去するためのクリーニングを中心としたメインテナンスをおこなうこととしました。

矯正治療後を予測した予測模型

矯正治療後を予測した予測模型 上顎

矯正治療後を予測した予測模型 右側矯正治療後を予測した予測模型 正面▼は開窓牽引して配列した上顎左側2、3番を表しています

矯正治療後を予測した予測模型 下顎

■開窓牽引開始時

初期治療後に再評価をおこない、歯の磨き残しがほとんどなくなり、診療室でPMTC後のフッ素塗布を繰り返しおこない歯質の強化をおこなった後、口腔外科にて開窓をおこなってもらい牽引を開始しました。 牽引は上顎歯列口蓋側(内側)にリンガルアーチを装着して牽引をおこないました。

開窓牽引開始時

▲埋伏している2、3番をリンガルアーチで牽引しています
▲ 埋伏している2、3番をリンガルアーチで牽引しています

開窓牽引開始時 右側開窓牽引開始時 正面開窓牽引開始時 左側

開窓牽引開始時 下顎

上顎左側3番萌出開始

上顎左側3番萌出開始 正面▼牽引により萌出してきた3番上顎左側3番萌出開始 上顎
▼ 牽引により萌出してきた3番

■開窓牽引終了、抜歯による矯正治療開始時

開窓牽引には約7ヵ月の期間がかかり、2番は口蓋側(歯列の内側)、3番は捻転した状態で唇側に萌出させることができました。その後牽引用のリンガルアーチを撤去し、X線写真により歯根吸収の有無などを再評価し問題がないことを確認し、上下顎左右第1小臼歯(4番)を抜歯して矯正治療開始しました。

開窓牽引終了、抜歯による矯正治療開始時 上顎
▲ 開窓牽引により萌出してきた2番(内側、口蓋側)、3番(外側、頬側)

開窓牽引終了、抜歯による矯正治療開始時 右側開窓牽引終了、抜歯による矯正治療開始時 正面開窓牽引終了、抜歯による矯正治療開始時 左側

開窓牽引終了、抜歯による矯正治療開始時 下顎

■動的治療開始時

小臼歯抜歯後に動的治療を開始しました。

動的治療開始時

動的治療開始時 上顎

動的治療開始時 右側動的治療開始時 正面動的治療開始時 左側

動的治療開始時 下顎

動的治療終了時

動的治療期間および経過

実際にかかった開窓牽引後の動的治療期間は約39ヵ月、開窓牽引とあわせた治療期間は46.7ヵ月でした。この間の調整回数は44回、平均的な来院間隔は1.1ヵ月でした。無断キャンセルなどはありませんでしたが、途中通院が途絶えた時期があったこと、歯の移動に予想より時間がかかったことで予測していた治療期間42ヵ月を越える結果となりました。現在はリテーナーを装着し、保定期間中です。

顔貌所見

側貌における顕著なバランスの変化はありませんでしたが、スマイル時に歯がきれいに並んで見えるようになりました。

動的治療後 側貌

動的治療後 顔貌

口腔内所見

上顎左側2、3番は咬合平面まで牽引され周囲の歯と高さが揃い上下全ての歯が均等に接触するようになりました。上顎左側2、3は牽引されましたが歯槽骨の高さは周囲に比べてやや低い状態となりました。上下歯列の抜歯スペースは叢生の改善と大臼歯の近心移動により閉鎖されました。

動的治療後 上顎

動的治療後 右側動的治療後 正面▼牽引された2番、3番

動的治療後 下顎

X線写真所見

X線写真所見では、上顎左側2、3番の歯槽骨の高さは低い状態でした。その他の歯に明らかな歯根吸収や歯槽骨吸収などを認めず歯根もほぼ平行に配列されています。8番(親知らず)は徐々に萌出してきていることを確認しました。
セファロX線写真の重ね合わせにより上顎前歯があまり後退せず、大臼歯が近心に移動して抜歯スペースが閉鎖したことがわかります。また、しっかりと噛めるようになったことで下顎が前上方(反時計回り)の回転が起きていました。

パノラマX線写真

パノラマX線写真:▼牽引した上顎左側2、3番
▼ 牽引した上顎左側2、3番

上顎左側2番デンタルX線写真

パノラマX線写真:▲上顎左側2番の根尖が湾曲していることがわかります

▲ 上顎左側2番の根尖が湾曲していることがわかります
上顎左側2、3番の歯槽骨が周囲に比べてやや低いことがわかります

セファロの重ねあわせ

セファロの重ねあわせ

――初診時 —-動的治療終了時の順序で色分けし重ねあわせをおこなっています。

■ 側貌および口腔内の動的治療開始から完了までの変化

初診(開窓牽引開始時)→動的治療開始(開窓牽引終了)時→動的治療終了時

初診(開窓牽引開始時) 顔貌動的治療開始(開窓牽引終了)時 顔貌動的治療終了時 顔貌

初診(開窓牽引開始時) 正面動的治療開始(開窓牽引終了)時 正面動的治療終了時 正面

初診(開窓牽引開始時) 右側動的治療開始(開窓牽引終了)時 右側動的治療終了時 右側

初診(開窓牽引開始時) 左側動的治療開始(開窓牽引終了)時 左側動的治療終了時 左側

初診(開窓牽引開始時) 上顎動的治療開始(開窓牽引終了)時 上顎動的治療終了時 上顎

■ う蝕(むし歯)と歯周病のトータルリスク比較

う蝕のトータルリスク比較

う蝕のトータルリスクは初唾液検査時「13」→動的治療終了時「8」と減少し安定しました。これは、歯の磨き残しであるPCRやフッ素の使用状況の改善によりう蝕の原因菌が減少しリスクが減少したこと、接触する歯の本数が増加し、かみ合わせが安定したことにより咀嚼能率が高まり唾液の分泌量が増加したことによる影響と考えられました。

う蝕のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスク比較

歯周病のトータルリスクは動的治療開始時「5」→動的治療終了時「3」と減少し安定しました。Nさんは10代で矯正治療を開始しているので元々歯周病のリスクは低いのですが、矯正治療中や治療後に歯周病の進行は認められませんでした。20代の後半から歯周病のリスクは加速度的に上昇していくので保定管理中もメインテナンスをすることで歯周病のリスクを低い状態で維持する予定です。

歯周病のトータルリスク比較

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

PCR、BOP、4mm以上の歯周ポケットの比較(%)

  • PCR(むし歯と歯周病の原因菌の付着を示す歯の磨き残し)
  • BOP(歯周病の原因菌による炎症を示す歯肉からの出血)
  • 4mm以上の歯周ポケット
    (歯周ポケットが4mm以上になると歯周病の原因菌による歯槽骨の破壊)

5分間刺激唾液分泌量の比較

5分間刺激唾液分泌量の比較
5分間の刺激唾液量

■ 考察

歯を支える骨、歯槽骨は永久歯の萌出とともに成長し高さを増していきます。したがって、永久歯が埋伏し萌出しないままで放置すると歯槽骨も成長せずに高さが不十分となる場合があります。歯槽骨の高さが不十分な場合、成人になって歯周病になり歯槽骨が吸収すると通常より歯を失いやすくなるので歯を長期に守る上で歯槽骨の高さが低いことはリスクとなるのです。永久歯が埋伏した症例でも成長期に永久歯を開窓牽引することで歯槽骨の成長を促せる場合があり本症例はそれにあたります。もし本症例が成人になるまで埋伏歯を放置されてから来院された場合には、もっと歯槽骨の成長は抑制され歯周病による歯を失うリスクは高くなっていたのではないかと考えます。一方、本来であればもっと早い時期、永久歯の埋伏がわかった時点で乳歯を抜歯して放置するのではなく矯正歯科専門医により開窓牽引などを開始すればもっと歯槽骨の成長を促せたのではないかと思われました。

また、埋伏歯は一般的に歯根が曲がる場合が多くあります。歯根が曲がるとむし歯が進行し歯の神経にまで達した際におこなう歯の根の治療が上手くいかず歯を抜かなければならなくなることがよくあります。埋伏歯の歯根が曲がることを防ぐことはできませんのでむし歯にさせないこと、なったとしても進行させないことが歯を守る上で最も大切となります。

永久歯が埋伏したことで歯槽骨の高さが低く歯周病により歯を失うリスクが高まったこと、歯根が曲がっていてむし歯により歯を失うリスクが高いことから、矯正治療によりリスクが下がったといって安心することなく、今後もメインテナンスによるむし歯と歯周病のリスクコントロールを継続することが重要と考えます。


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永久歯の矯正治療(Ⅱ期)の目安

治療内容
オーダーメイドのワイヤー矯正装置で治療を実施します。(スタンダードエッジワイズ法)
費用(自費診療)
約1,164,000円~1,339,000円(税別)
※検査料、月1回の管理料等を含む総額
通院回数/治療期間
毎月1回/24か月~30か月+保定
副作用・リスク
歯根吸収が起きる可能性があります