| ヘッドギアの目的はいくつかありますが、モカさんのような成人に用いる場合のほとんどは加強固定(かきょうこてい)が目的です。(矯正的)歯牙移動の仕組みは、歯同士の<引っ張りっこ(綱引き)>であり、矯正治療の基本はその<引っ張りっこ>によって、動かしたい歯をいかにスムーズに目的の場に移動させるかと、移動させてはいけない歯をいかにそこに留めておくか(固定)の組み合わせである、といえます。? ヒトの歯は、放っておくと奥の歯が前に移動する性質があります。上の前歯をできるだけ引っ込めたい(後に動かしたい)ような場合というのは、逆に言えば、奥の歯は1ミリたりとも前に移動させるわけにいきません。しかし、ヒトの歯は生理的に前に出やすいですから、単純に前歯と奥歯の<引っ張りっこ>では、前歯が引っ込まずに奥歯が前に出ることになります。そこで、前に移動して欲しくない奥歯に対して用いるのが、加強固定としてのヘッドギアです。 ? そこでモカさんの矯正治療ですが、<上の奥歯を奥に動かすものと聞いている>という方針のためのヘッドギアだとすると、目的は上の場合と異なります。モカさんの不正咬合がどのような状態で、具体的にどのような治療目標のために、どのような治療方針で臨もうとしているのか(ことに抜歯について)詳細が分かりませんが、上の奥歯を奥に動かすとすると、まず奥歯の奥には隙間があることが絶対条件です。 今現在当院では、成人患者に対して奥歯を後ろに送るためにヘッドギアを用いることはほとんど皆無ですが、以前、10代後半のアメリカ女性に対して、この目的でヘッドギアを用いたことがありました。7番を抜歯して、6番を遠心(後方)に移動するのが目的でしたが、その時の指示は原則24時間の使用でした。実際に毎日ほぼ18時間使ってくれて、約4ヶ月で目的の歯牙移動を達成しましたが、歯牙移動を目的としてヘッドギアを使用するとしたら、このくらいの使用時間がないと効果は覚束(おぼつか)ないかも知れません。 今現在、奥歯を後ろに送るためにヘッドギアを用いることがほとんどないのは、固定式(取り外しが出来ないタイプ)の装置やインプラント矯正で、もっと素早く確実に目的を達成できるからで、モカさんの矯正の詳細な事情は分かりませんが、帰国後にそれを装着する方がズッと楽だと考えるからです。 <フェイスボウのフックは一番上の穴に引っ掛けているので引っ張る力は最大>というのは、ヘッドギアにも色々なタイプがありますのでよく分かりませんが、矯正医の管理なしで1年もの間、ヘッドギアを使い続けることにいささかの不安を覚えます。少なくとも、矯正医にメールか電話で状況を報告するなり、指示を仰ぐことが必要でしょう。 以上でご質問の回答にはなったかと思いますが、2の質問については治療目標がどこにあるか次第で、歯一本分奥に移動するとしたら全然不十分でしょうし、前に来るのを防いでいるためであれば、それで十分といえます。
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