| お嬢様のケースは、典型的な矯正歯科の領域にある疾患で、(今さらですが)気がついた中学一年生の時点で矯正専門医に診てもらっておくべきでした。歯科にも色々な分野があり、先生によって得意不得意がありますが、花子さんが連れていった歯科医は、どちらも(ことに最初の歯科医は)矯正歯科治療に疎く、判断と処置を誤っています。この時の正しい判断とは、矯正歯科医に委ねるべく紹介の手続きをとることです。 よくある誤解のひとつに、<乳歯が抜けなかったから永久歯が曲がっていった>という考え方がありますが、実際は逆で、<顎骨内の永久歯の位置がズレているために、乳歯が吸収されずに残った>というのが、まずほとんどです。 上顎の犬歯が迷走することは珍しいことではなく、矯正医は時機を見て(口腔外科医に依頼して)犬歯部の歯肉を開き、露出させた犬歯の歯面にフックを接着し、本来の位置に誘導します。時期を失すると、犬歯の歯冠(口の中に出る部分、エナメル質に覆われているため非常に硬い部分)が他の歯の歯根に当って、まともな位置にある歯の歯根を吸収してダメにしてしまいます。 乳犬歯が抜けて、正常に永久犬歯に生え変わるのは、10歳から11歳ぐらいの頃ですから、その時点で乳犬歯の脱落が異常に遅ければ、矯正医は永久犬歯の位置異常を疑います。なぜそのようになるか、原因は一様ではありませんが、花子さんが書かれているように、お嬢様が<小さいアゴに大きな歯>という不正咬合になる最大の要因を家族的(遺伝的)に持っていることが、原因の一つであることは間違いないでしょう。 他の歯医者さんによる「ある程度出てきたらこの犬歯は抜くしかない」という判断には、矯正医としていささか疑問を感じます。何よりも、犬歯が咬合上極めて大事な歯であるということもありますが、すでに<前歯が押されて、少しグラグラする>という状態は、その歯に歯根吸収が起こっている可能性があることを示唆しています。すでに歯根吸収が深く進行していれば、犬歯の抜歯に続いてその前歯も失うことになります。 また、<ある程度出てきたら>ということは、場合によれば歯根吸収をさらに進行させることを意味しますから、手遅れになる前に、その前歯が助かるのか助からないのか、専門医による早急な判断が必要だと感じます。 最後に、お嬢様の犬歯に対する判断の遅れには、花子さんの歯ならびに対する思い違いが少しあるように推測しますが、どうでしょうか。それは、誰も元々は正常な歯ならび、咬み合わせになるべくして生まれている、というものですが、そういう思い込みはないでしょうか。 前にも書きましたが<小さいアゴに大きな歯>という条件は、予防のしようがない不正咬合の最大の要因で、八重歯はなるべくしてなったものであること、そして、その解決には矯正治療しかないことを、納得していただかなければいけません。
<どうすればよいでしょうか>というご質問へは、以上のことを踏まえて<速やかに矯正歯科専門医を受診してください>というのが回答です。具体的なことは、すべてその矯正医が答えてくれます。
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