| 呼吸は鼻で行なうのが正常で、口は食べたり話しをするための器官ですから、欠伸(あくび)や一時的に大量の酸素を必要とする激しい運動時など以外には、口で呼吸はしません。鼻で呼吸ができる状態にある人は、無意識に鼻呼吸をしますが、日常的に口呼吸をする人は<鼻で呼吸ができない何らかの原因>が必ずあります。中山さんは、それが何かを見つけることが先決です。 舌の位置は、口呼吸の原因ではなく結果と考えるべきです。したがって、原因の解決なしに舌の位置だけコントロールしようとしても、口呼吸は治りません。口呼吸の原因すなわち鼻呼吸を妨げる原因は、鼻閉(鼻づまり)を起こす鼻咽腔の諸疾患(たとえば鼻茸症、血管運動性鼻炎、肥厚性鼻炎、鼻中隔彎曲症など)や、口が閉じにくい不正咬合(たとえば開咬、上顎前突症)などが考えられます。舌のトレーニングは、その治療と並行してなされるべきです。 <食事中や会話中の正しい舌の位置は>というお尋ねですが、その時の舌は機能している最中ですから、舌はそれに相当した行動を取りますので、中山さんのいう<その時の正しい位置>というのは、瞬間ごとに変ってきます。つまり食事中は、前歯で咬み切り、それを奥に送り込み、奥歯ですり潰しやすくしたり、左右に食物を移動させたり、混ぜ合わせるための複雑な行動を取りますので、正しい位置ではなく、正しい行動型という考え方をするべきでしょう。 飲食事に舌が問題になるのは飲み込むとき(嚥下:エンゲ)の動きで、このときに舌は上顎につくのが正しいのですが、前歯上下の間に舌を突き出す癖が曲者です。この癖を舌突出僻といい、とくに嚥下時に見られる場合を異常嚥下癖といいます。これらは、開咬の大きな誘因ですが、口呼吸と直接関係する動作ではありません。 発音(発声、構音)時の舌の位置は、英語の授業で口の形や舌の位置を厳しく指導されたように、正しい発音にはそれぞれ舌の正しい位置があります。問題は、たとえばサ行(さしすせそ)を発音するときに、tha,thi,thu,the,thoになることです。これをlisp(ing)といい、アメリカの小学校ではspeech therapisit(言語療法士)が厳しくこれを矯正する、と聞いています。つまりこれも舌突出僻の行動型の一つですが、これがあるからといって口呼吸と直接関係するわけではありません。 正しい発音(構音)のための舌や口唇の動きは、演劇やアナウンサー養成学校などで教えているかと思います。
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