| 1.ご質問はケースバイケースで問題点が複雑多岐になるため、詳細はNさんが矯正歯科医院に足を運んで直接聞いていただくしかありませんが、ご質問の元を正せば、そもそもは<矯正治療における抜歯・非抜歯>の是非論から始まります。 この点については、<抜歯・非抜歯>をキーワードに過去ログを検索しお読み頂きますが、極めて大雑把に表現すれば、小臼歯抜歯=抜歯論は<歯列を小さくする考え方>であるのに対し、親知らず抜歯は基本的に非抜歯論で、<歯列を前後左右に拡大する考え方>であって、そのうえで僅かでも親知らずの抜歯スペースを利用したい、とするものです。 本来、小臼歯抜歯でなければ矯正本来の目的に達し得ないケースを、親知らずの抜歯で小臼歯抜歯と同等の治療結果を得ることはできない、と考えています。もしできたとしたら、そのケースは元々小臼歯抜歯の適応ではなかったといえます。この親知らず抜歯の非抜歯論にあるのは、<親知らず以外の歯を抜かなかった>という、ことの善し悪しは別とした観念的な非抜歯への、患者、術者双方の満足感だろうと思います。
親知らず抜歯による矯正治療において、抜歯すべき親知らずの大きさが十分で、かつその抜歯により有用なスペースが確保できるケースの場合で問題になるのは、いかにして親知らずより前方にある(つまりすべての)歯を後方に移動するか、という手段の問題です。それは、生理的に(放っておくと)前方に移動し続けるヒトの歯を、後方に移動するには特別の装置や考え方が必要だからです。 その一つがインプラント矯正と呼ばれる方法で、おそらく小臼歯に代わって親知らずを抜歯する治療法を喧伝する矯正医のほとんどは、インプラント矯正を前提にしているはずです。インプラント矯正については、下記の過去ログを参考にしてください。 http://www.hiruma.or.jp/cgi-bin/treebbs/cbbs.cgi?mode=all&namber=2453&type=0&space=0&no=0 言い換えれば、抜歯した親知らずのスペースが十分確保できないにも関わらず、親知らず抜歯で非抜歯治療を行なった場合の結果は、しばしばこのコーナーで相談を受ける<非抜歯治療の失敗>に限りなく近づくことになります。なお、非抜歯論者の論拠するところに、<(小臼歯)抜歯矯正は舌房を狭くし、それにともなう諸々の弊害がある>というのがありますが、筆者はその考えに与しません。
2.歯列内に歯が納まらず(小臼歯)抜歯による矯正治療が必要なヒトの歯数は、上下12本づつの計24本で良しと考えています。歯の大きさと顎の大きさの不調和による影響は、前歯部の八重歯や出っ歯にとどまらず歯列全体に及びますので、少なからぬケースで親知らずが傾斜したり埋伏したりします。 そのまま正常に萌出すればもちろんそれで良しとなりますし、十分なスペースがあり、保存価値のある親知らずは装置を掛けて治しますが、スペースがなく傾斜したり埋伏した親知らずは抜歯の対象になります。 つまり小臼歯の抜歯スペースのほとんどは、小臼歯より前方にある歯群の不正の改善や、口元の審美性回復(口元の後退)のために消費されますので、小臼歯抜歯が親知らずの萌出余地を作ることには大抵はならないものです。
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